2014年09月26日
建設や介護の分野を中心にした人手不足の深刻化を受けて、外国人の働き手の活用拡大を進める政策が進められようとしている。
しかし、その中身は、批判の多い技能実習生制度の拡充にとどまっている。期限が来れば、帰国を強いる仕組みは従来の付け刃にしかすぎない。長期的な日本の人口減や社会保障の担い手不足に対応するためには、日本で技能を身につけた外国人に定住への道を広げる手立てが必要だ。
地方の人口減少に対応するために、「定住外国人の増加についてどのようなお考えでしょうか」という問いかけをしたところ、都道府県の3分の1にあたる34%の自治体が前向きな評価をしているのだ(回収率62%)。
内訳を見ると、「定住外国人の増加に向けて検討したい」が7%、「特別の施策はしないが、自然に定住外国人が増加することは望ましい」が27%だった。「定住外国人の増加は望ましくない」という否定論が0%であることを考え合わせると、打ち出せる妙案はないが、なんとか定住外国人は増えていってほしいという切なる地方の気持ちが感じられる。
人口減や高齢化が深刻な道府県ほど定住外国人の受け入れには熱心との傾向があるのも当然だろう。民間の日本創生会議が今年5月に発表したレポートでは、2040年に全国の1718市町村のうち896市町村が消滅の危機に直面するとのショッキングな見通しを示した。全国知事会も7月に少子化非常事態宣言を出している。
ただ、その方策として論議されているのは、新産業の誘致・開発、観光や学園都市の創出、大都市圏への人口流出の抑制であり、定住外国人としては高度人材の受け入れが挙がっている程度だ。「わけのわからない外国人が来ても問題が増えるだけ」といったぼんやりとした懸念や心配が先立っているのがわかる。
1990年代、自動車産業を中心に現場で働く日系ブラジル人が急増した時に静岡県や群馬県など全国の地元自治体が、日本語クラスや子どもの教育の対応に追われた。しかし上記のアンケートに現れているように、今では、そうした問題対応型ではなく、より積極的に外国人の定住を歓迎する空気が自治体に生まれている。
アンケートを実施した同センターによると、農業や畜産、水産業など地方を支える産業が、技能実習制度を通じて来日した外国人の働き手によって支えられているという事情が背景の一つにあるのではないか、という。
中国地方や北海道の自治体では、人口問題への高い危機意識とともに、来日したベトナムなどアジアの労働者の働きぶりへの高い評価が、定住外国人への期待につながっているというのだ。
欧米先進国に比べて、外国人への門戸を狭くし、入国後も厳しい管理態勢を敷いている日本政府は、人手不足に悩む産業界の要請を受けて、工場の単純労働を担う南米の日系人の大量入国を促すなど、その場しのぎの対応を重ねてきた。
技能実習制度もその便法の最たるもので、政府は、地方の中小の産業を含むように対象業種を増やしつつ、低賃金労働者を確保することで、地方の衰退を防ごうとしてきた。しかしこの間、政府が頑として譲らなかったのが、ローテーション制度を崩さず、3年の契約期間が終わった実習生を帰国させることだった。
この方法だと、経営者がいくら気に入って、将来を見込んだ若者であっても実習生は日本に残れず、期間が終われば、たちまち不法滞在者として法務省入国管理局の取り締まりの対象になるだけだ。いくら地方に役立つ人材であっても、「途上国への技術移転」という制度目的が妨げになって、雇用主はコストを負担し、地方は人材を確保できず、自らの首を絞める形になっている。
「高度人材よ、日本に来てください」と鐘や太鼓を打って招致活動をしても、多くは、日本より暮らしやすい欧米や他のアジア諸国に向かっていく状況だ。
かつて同様の技能実習制度を持っていた韓国が、約10年前にこの制度を撤廃して、新たに雇用許可制度を導入し、さらに多文化共生政策を進めているのに比べて、女性と高齢者の活用策に頼る安倍政権の視野は狭すぎやしないだろうか。
この壁を越えるには、外国人の働き手に定住への道を広げる手を打つことが最初の一歩になるだろう。
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