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「日本人は人を殺しに行くのか」――伊勢崎賢治氏と考える集団的自衛権

伊勢崎賢治 紛争屋

 「紛争屋」を自称する伊勢崎賢治さんが、渾身の一冊を著されました。『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新書)です。WEBRONZAは11月5日、伊勢崎さんを招き、都内でトークセッションを行います。この問題についてリアルな場でみなさんと考える試みです。

 それに先立ち、ここでは、この新書のまえがきをご紹介して、問題意識を共有しておければと考えています。

 トークセッションの詳細につきましては、WEBRONZAの「編集部から」でお知らせします。

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『日本人は人を殺しに行くのかー戦場からの集団的自衛権入門』 まえがき

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 伊勢崎賢治(いせざき・けんじ)
1957年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。東京外国語大学大学院「平和構築・紛争予防講座」担当教授。国際NGOでスラムの住民運動を組織した後、アフリカで開発援助に携わる。国連PKO上級幹部として東ティモール、シエラレオネの、日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を指揮。著書に『武装解除――紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略』(NHK出版新書)など多数。

 

 みなさんはじめまして。
 この本の著者、伊勢崎賢治と申します。

 私の仕事は一言で言うと「紛争屋」です。「紛争屋」と言っても、武器を作ったり、企業の抗争に介入したりするわけではありません。現在は東京外国語大学大学院で教授として、国際政治――中でも「平和構築・紛争予防講座」という紛争をテーマにした講義を開いています。

 それ以前は、国際NGOの職員として、国連平和維持軍を統括したり、またある時は日本の外務省から指命を受け、30年以上にわたって、世界各国の紛争現場で、紛争処理や武装解除の活動を行ってきました。

 本書は、私の「戦場」での経験と「大学」での研究の成果を生かして、今、話題になっている「集団的自衛権」の問題について、一冊で丸ごと解説してしまおうというものです。

 集団的自衛権の問題は、様々な思惑と歴史が絡んでいるため、テレビや新聞の解説程度では表面的なことしか分からず、問題の本質にまではとてもたどり着けません。かといって、世に出ている集団的自衛権についてまとめられた本は、ある程度この問題に興味があり、専門用語や歴史についても一定の理解がある人に向けてつくられているものが多いため、知識ゼロの人にとってはそもそもハードルが高い。

 そのためこの本では、普通なら前提知識として説明を省いてしまうような部分についても可能な限り丁寧に説明していこうと思っています。

 私はあえて「紛争屋」を自称していますが、その問題意識は、この本を読んでいるあなたにも、密接に関係していることだと考えています。

 私の紛争屋としてのキャリアは、インドのスラム街から始まりました。20代半ばの頃です。当時、民族間の対立から暴動が絶えなかった現地で、コミュニティ・オーガナイザーの立場で住民運動に関わったのがきっかけでした。欧米に拠点を置く国際援助組織の現地事務所長となった私は、シエラレオネ、ケニア、エチオピアで農村総合開発に関わりました。その後、国連平和維持活動(PKO)の幹部として、独立前の混乱期だった東ティモールへ。多国籍軍二個大隊を統括し、治安維持と新しい国家づくりの指揮をとりました。

 40代になって、再びシエラレオネへ。この国では、同じく国連PKOで武装解除の責任を負いました。2003年から翌年にかけては、日本政府の特別代表という立場でアフガニスタンに赴き、タリバン政権崩壊後、覇権争いで内戦を始めていた軍閥たちの武装解除を指揮しました。

 ご覧のとおり、「紛争」こそが私の生活の糧でした。現在は、日本の大学で教鞭をとっているわけですが、それでも「紛争業界」の一員として活動しているということに変わりはありません。

 私は、「紛争を、戦争を終わらせるために」という大義を掲げながらも、結局のところ、戦争に関わることで食い扶持を稼いでいる。世界に戦争があるからこそ、この仕事が続けられている。見果てぬどこかの地で、誰かが殺されている戦争が存在しているからこそ私の今がある――。

 そんな自覚があります。

 だから、そのことを絶対に忘れないために、私は自戒を込めて「紛争屋」と自称しています。

 私が、「紛争屋」と称することで自分自身に課している十字架は、この本を読んでいるあなたにもそのまま当てはまるものです。

 なぜなら、あなたは税金を払っているから。

 日本は、莫大な戦費をアメリカに貢ぐことで、また同時に、「非戦闘地域」という美名の下に自衛隊を海外に派遣することで、アメリカの戦争に加担しています。その貢がれた戦費と、派遣された自衛隊員の給料は、国民の血税によって賄われているのです。

アメリカ同時多発テロ後のアフガニスタン戦争では、2014年6月までに1万9269人もの民間人が(*1)、その後のイラク戦争では、開戦後の3年間で15万1000人もの民間人が巻き込まれ亡くなりました(*2)。

 アメリカ同時多発テロが起こった際の世界貿易センタービル倒壊では、2700人が亡くなりました。それに対し、アフガンとイラクに派遣されたことで命を落としたアメリカ兵の数は6000人にのぼりました。

 あなたは、無意識のうちに、国際的なテロ行為よりも多くの死者を出す、アメリカの戦争の片棒を担いでいるのです。

 視点を変えてみましょう。

 あなたはこれまで、次のようなことを考えていなかったでしょうか?

 「集団的自衛権の行使を容認しないとアメリカは日本を助けてくれない」
 「そのうち、中国、北朝鮮、韓国が日本に戦争を仕掛けてくる」
 「国連PKOへの自衛隊の派遣は世界の役に立っている」
 「イラク戦争で自衛隊に戦死者は出ていない」

 でもこれが、「誰か」にとって都合のいいウソだったとしたらどうしますか?

 本当は集団的自衛権の行使容認なんて必要ないのに、「必要かもしれない」と思いこまされているとしたら?

 それどころか……現時点ですでに、日本人が、海外で人を殺し、殺される一歩手前まできているとしたら?

 本書には、日本のマスコミではほとんど語られていない「集団的自衛権」の真実とともに、「集団的自衛権とは何か?」「集団的自衛権の行使が容認されたら、日本に何が起こるのか?」「そもそも集団的自衛権の行使容認は本当に必要なのか?」といった、「今さら聞けない集団的自衛権の基本の話」をまとめました。

 「集団的自衛権」の行使が容認されれば、間違いなく、日本と、日本人を取り巻く国際環境に劇的な変化が起こります。ついに徴兵制が日本に布しかれることになる……とまでは言いませんが、これまでのどの外交問題、どの国際関係上の諸問題よりも、国民の生活に直結する形で変化が生じることになります。その影響は、あなたも決して逃れられるものではありません。

 これは、我々の子ども世代、孫世代、そして、今はまだ見ぬ将来の子孫たちの世代すべてに関わる問題でもあります。ですから、集団的自衛権行使の是非を、今まさに論じあっている私たちの世代の人間は、集団的自衛権の問題について真剣に考え、議論しあう明確な義務があるのです。その道を避けてしまうと、あなたの意志が介在しないところで、日本の未来と日本人の将来が変わってしまうことになるのですから。

 と、まえがきから少々話が硬くなりすぎたようです。本書は、知識ゼロの人が読んでもすんなり理解でき、読み終えた頃には「集団的自衛権の問題」がすっきり分かって、この問題についてある程度議論できるようになっている――もちろん、集団的自衛権行使容認の是非について自ら考える知識を身に着けられる――、そんな内容を目指しています。

 ひとつひとつ、じっくり丁寧にお話ししていきますので、東京外国語大学での私の授業を受けに来たような気持ちで、リラックスして読み進めていただければと思います。

 それでは早速、講義を始めていきたいと思います。私のような「紛争屋」の仕事が、早期に、この世界から必要のなくなる時代がくることを、心から願いながら。

伊勢崎賢治

*1)国連アフガニスタン支援団(UNAMA)発表(2014年6月末までの数字)
*2)2008年1月9日WHO(世界保健機関)発表

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筆者

伊勢崎賢治

伊勢崎賢治(いせざき・けんじ) 紛争屋

1957年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。東京外国語大学大学院「平和構築・紛争予防講座」担当教授。国際NGOでスラムの住民運動を組織した後、アフリカで開発援助に携わる。国連PKO上級幹部として東ティモール、シエラレオネの、日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を指揮。著書に『武装解除――紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略』(NHK出版新書)など多数。