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韓国でも批判された産経新聞前ソウル支局長の起訴――背景に「カカオトーク問題」と「サイバー亡命」

伊東順子 フリーライター・翻訳業

 朴槿恵大統領に対する名誉毀損(きそん)で在宅起訴された産経新聞ソウル支局の加藤達也前支局長(48)に対する出国禁止措置が、10月16日から3カ月間延長されたという。もしも自分だったらと思うとぞっとする。海外在住者にとっては非常に厳しい措置だ。

 韓国でも今回の起訴は大きな話題となった。日本では一連の韓国バッシングの中、8月の事情聴取直後からメディアなどでもさかんに取り上げられてきたが、当の韓国ではそれほど関心がもたれていなかった。それがここにきて突然テレビニュースや新聞などでも、幅広く議論されている。

 産経新聞は韓国では「極右・反韓新聞」として評判が悪い。ところが今回は「記事の内容は評価できないものの」としながら、産経よりも検察や政府当局の措置を問題にする声が大きくなっている。

 もともと政府に批判的な京郷新聞やハンギョレ新聞だけでなく、朝鮮日報などの保守系の新聞、あるいはSBSなどの地上波放送も、起訴に関しては憂慮を隠さない。

 インターネット上はさらに厳しい、吐き捨てるような政府批判ばかりが目に飛び込んでくる。「外信記者の起訴は異例」、「民主主義国家ではあり得ない言論弾圧」、「日本だけでなく米国からも批判」……。

 確かに尋常ではない事態だが、今回ここまで注目が集まった理由は、別のところにあるようだ。

 「それはまさに我々の問題だから」。外国メディアの支局長が異例の、しかも超スピードで起訴された理由は、韓国国内の政治状況に関連しているから。

 それが、いわゆる「カカオトーク問題」である。

 この問題について日本語で読める記事としては、10日にJBPRESSに掲載されたアン・ヨンヒさんの「大統領発言を引き金に韓国から亡命する人々が急増中 政府の検閲を恐れ、カカオトークから次々ドイツのテレグラムへ移籍」という記事がわかりやすい。

 タイトルにある「大統領発言」として、9月16日に朴槿恵大統領が国務会議でおこなった以下の発言が引用されている。

 「国民の代表である大統領に対しての冒涜発言が度を過ぎている。これは国民に対する冒涜でもあり、国家のステータスを陥れ、さらには外交関係にまで影響を及ぼしかねない」

 大統領の発言は威力をもつ。

 検察の対応は素速かった。18日には「オンラインモニタリングを実施し、虚偽事実流布の事犯を見つけ出す」と発表、25日には「サイバー虚偽事実流布専担チーム」を発足させた。

 「この発表は、モバイルメッセンジャーを使っている人たちを震え上がらせた。なぜなら、プライベートなメッセージが監視下に置かれると思われたからだ」

 さらに、そうしたことを嫌う人々が、カカオトークから抜けだしてドイツのテレグラムに「サイバー亡命」を開始したというのが、記事の内容だ。

 この記事を読んだ直後に、私のところにも知人からテレグラムの誘いがきた。なるほど、彼もカカオを抜けたようだ。

 カカオトークなどのモバイルメッセンジャーは、日本よりも韓国の方が年齢層を問わず広範に浸透している。知人は50代後半、「現大統領になって韓国は、あの父親の時代に戻った」が口癖だ。

 50代以上はまだ独裁政権時代の記憶が生々しく、朴槿恵大統領の言動は彼らのトラウマを呼び起こす。「あの恐怖は経験したものしかわからない」。収監された経験のある別の友人は、今も当時の記憶に悩まされている。もちろん、あの時代がよかったとして現大統領を選んだ人々もたくさんいる。

 それにしても、なんというタイミングだろう。カカオトークは韓国第2のポータルサイト「ダウム」と10月1日付で合併、1位にネイバー・ライン組を追い抜こうと思っていた矢先だった。

 新会社を発足したばかりのダウムカカオにとって、ここで対応を間違えると大変なことになる。

 ところが、当初は否定していた警察への情報提供を結局は認めることになるなど、混乱が続いた。

 それをうけて株価も急落。合併直後の16万6500w(ウォン)が10日には13万9200wまで落ちている。

 李代表は13日に謝罪会見をおこない、「捜査関係者の通信内容提供に今後は応じない計画」と述べ、「令状執行の過程で最小限の情報だけが提供できるように、手続きと現況に対し、外部専門家らと共に情報保護諮問委員会を構成する」と説明した。

 つまり、ここにきて産経新聞前支局長の問題も、この流れの中に合流しつつある。

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筆者

伊東順子

伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業

愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。

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