2014年11月03日
今年4月、米国のヘーゲル国防長官がモンゴルを訪問、7月にはモンゴルのエルベグドルジ大統領が日本を訪問した。モンゴルの隣国、中国の習近平国家主席は、国交65周年に際して8月24日から25日までモンゴルを訪問、ロシアのプーチン大統領も9月3日に訪問した。モンゴルと大国との間で活発な外交が繰り広げられ、モンゴルの地政学上また資源戦略上の重要性が注目を集めている。
しかし経済においては、隣国である中国やロシアの影響からは抜け出せないのが現実だ。1999年から2013年まで、中国は連続15年間、モンゴル最大の貿易相手国であり投資国である。ロシアも、モンゴルでのエネルギー資源の開発などあらゆる分野の権益を回復しつづけている。中国とロシアは、投資、貿易額の6割以上を占めている。さらに政治、軍事においても、この2大パワーからのインパクトを受けざるを得なくなっている。
中国は人材育成にも熱心だ。モンゴルに対し千人の研修枠を申し出たほか、政府奨学金の枠を千人増やした。さらに軍の500人を育成、青年500人、記者250人の招待を約束した。中国は2020年には、両国の貿易額が100億米ドルに達すると展望している。
ロシアとの関係をみてみよう。8月中旬のハルハ河戦争(ノモンハン事件)勝利75周年の記念イベントでは、ロシア軍のヘリコプターや戦車が、多数国境をこえ、モンゴル東部のドルノド県に姿をあらわした。
プーチン大統領は、一貫してモンゴルとの関係を重視してきた。前回、大統領をつとめていた2000年11月以降、たびたび訪問し、政治、経済面での協力や軍の要員の育成、軍事協力を強めてきた。
9月3日にウランバートルであったハルハ河戦争75周年の記念式典で、プーチン大統領は「歴史の記憶とかつての英雄的出来事は、ロシアとモンゴルの友好を築いた基盤である」と述べ、戦争の勝利がロシアとモンゴルの関係や世界史に果たした役割を強調し、政治、経済、軍事などの分野に及ぶ15の協定が結ばれた。なかでも無償軍事援助と電化鉄道の建設への支援は注目される。
プーチン氏のモンゴル訪問は、今春のウクライナ危機によってもたらされたロシアと欧米諸国間の軍事的対立とも関連している。欧米の首脳がモンゴル首脳と会談し、協力を求めるなか、プーチン氏のモンゴル訪問は、欧米や日本を牽制(けんせい)する意味があるのだ。同じく中国がモンゴルと関係を強化するのも、モンゴルと「第3の隣国」である日本やアメリカとの関係に対する牽制だともいえる。
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ボルジギン・フスレ
昭和女子大学人間文化学部准教授。1966年生まれ。中国・内モンゴル自治区出身、1989年北京大学哲学部卒。2006年東京外国語大学大学院博士後期課程修了、博士。専門はモンゴル学・東アジア国際関係。
※本論考はAJWフォーラムより転載しています
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