2014年11月04日
「西欧も米国も、ウクライナ国民の意思をきちんと見るべきだ。国民の多数は、独立し、主権を持ち、自由なウクライナを願っている」とクワシニエフスキ氏は、「ヤルタ・欧州戦略国際会議(YES)」での講演で語った。
だが同時に、「プーチン氏の側にある基盤や手段を見ると、ウクライナの欧州への統合は大変に難しい課題であり、過度に楽天的にはなれない」ともした。
クワシニエフスキ氏によると、プーチン氏は「(ウクライナが長くロシア帝国やソ連に属した)歴史、(ウクライナにロシア語を話す住民が多い)言語、(ロシアと同じ正教圏にウクライナも属することなどの)伝統、(圧力の行使手段としての)天然ガスと石油、(経済危機に瀕したウクライナに支援して影響力を行使するための)金銭、(ウクライナよりはるかに強大な)軍事力、(クレムリンが牛耳るロシアのメディアを通じた)プロパガンダ、ウクライナで活動している(ロシアの)スパイ網を持っている」。
しかし、そうしたロシアに対抗するために「我々の持つものは多くはない」とクワシニエフスキ氏はいう。それは「(欧州の)価値観と基準、(ウクライナに対して)開かれた扉、(ウクライナ支援のための)多少の金銭」であり、そうした中では欧米が見落としがちな「独立、主権、自由であろうとするウクライナ国民多数の願い」が「何よりも重要」だと強調する。
2004年のオレンジ革命で政権を握った親欧米派は、その後、政争に終始したことで「むなしく時間を浪費した」ともし、「我々はもはやこうしたことを看過できないし、指導層が国を変え、改革する可能性を失うことを我慢することもできない」と警告した。
クワシニエフスキ氏は、ポーランドが民主化する前にはポーランド統一労働者党(共産党)の党員であり、ソ連の旧共産圏政策に協力する勢力に属していた。このことからロシア語もうまいし、何よりもロシアの対外政策の本質とその動き方を生身の感覚を通して理解する能力を身に着けている。
旧共産党の流れをくむ民主左翼連合の支持を受け、1995年の大統領選挙で現職だった元自主労組「連帯」の指導者ワレサ氏を破って当選、2005年まで務めてポーランドのEU加盟やNATO加盟を実現させた。
現在のポーランドが力強い経済成長を続け、トゥスク前首相もEU大統領に選出されるなど、国際的な影響力を強めていることからくる自信であろう。とりわけロシアを強く警戒しつつ、ウクライナにも支持の一方できびしい注文も忘れないところに、東西陣営のはざまの現実をしたたかに生き抜いてきた政治家のすごみを感じる。
この点で、「欧州もロシアも自由とそして民主主義、お互いに自由と繁栄を願う国々であるのだから、できれば、理想をいえば新しい欧州の体制ができあがってもいいのではないか」と語る森喜朗氏は、クワシニエフスキ氏の立場からすれば、かなりナイーブに映ることになろう。
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