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ウクライナと日ロ関係をモスクワ、キエフで考える(5)――ロシアは変わらない国?

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

 日本の東アジア外交をとりまく環境は依然きびしい。中国との首脳会談には見通しがつき始めたが、抜本的な関係改善は韓国と同様、かなり先の課題になる。一時期待の大きかった北朝鮮との間での拉致問題の解決も、急速な進展は見込めなくなっている。

 そうした折りに、北方領土問題をのぞけば比較的日本との間に問題が少ないロシア関係に目を向け、領土問題を解決して歴史に名を残そうと望むことは、任期の長短や政権基盤の強弱に関係なく、日本の歴代首相が一度はとりつかれる半ば伝統と化した観がある。

 安倍晋三首相は、最近の首相の中では政権基盤が最も強固だ。日ソ関係の改善に心血を注いだ父親の故・安倍晋太郎元外相の情熱も引き継いでいる。9月に停戦が成立してウクライナ情勢をめぐる米欧とロシアとの緊張が緩和する可能性が出てきている今、プーチン大統領との直接対話による関係強化の道を探るのは、自然な成りゆきだろう。

 一方のプーチン大統領はウクライナ情勢をめぐって米欧との関係が悪化するにつれて、東の中国を経済や安全保障での主要な協力のパートナーとしていく姿勢を見せている。20年近い交渉の末、今年5月に結んだ天然ガスの対中国供給合意はその象徴だ。

 しかし、経済も軍事力もはるかに強大な中国に依存しすぎると、二国間関係やアジア・太平洋政策などに関するあらゆる分野の主導権を、中国に握られかねない。そこでバランスをとるためにアジアで第2の経済大国日本とも、一定の協力関係を保つ必要がある。ウクライナ情勢で日本が対ロシア制裁を導入するたびに強い反発を示しながら、対話の道を閉ざそうとしないのは、このことが大きい。

 ロシア外務省は9月24日、日本が発表した、ロシアの特定の銀行に対して日本での証券の発行などを禁止する制裁措置に関し、「この非友好的措置は日本が米国に追従し、独自外交を展開できない無能さを改めて証明した」と批判する声明を出した。

10月17日、イタリアのミラノで会談する安倍晋三首相とプーチン大統領=内閣広報室提供拡大10月17日、イタリアのミラノで会談する安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領=提供・内閣広報室
 また、日本政府も、イワノフ大統領府長官が同じ日に北方領土の択捉島を訪れると、菅義偉官房長官が、「ロシア政府要人による訪問は、日本の立場と相いれず、国民感情を傷つける」と批判した。

 しかし、その後も日ロの首脳は10月17日にイタリア・ミラノで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議で短時間の接触をしたほか、11月の北京APECで正式な首脳会談を行う方向となっている。

 実際のところ、日本がロシアに課した経済制裁は、両国が実際に経済協力を進めるうえで実態的に大きな支障が出る内容になっていない。ロシア要人へのビザ発給制限も、プーチン大統領の真の側近が訪日するのに障害が出ないような範囲にとどまっている。

 だからロシア側も、日本の制裁措置は両国の当面の政治対話にとって大きな障害にはならない、との立場を取っている。

 こうなると北方領土がらみで見せた強硬な態度は、ロシアはクリミア併合以降のウクライナ情勢をめぐって愛国的機運が高まる国内世論を、日本は領土問題解決を念頭に置いた日ロ関係の改善志向が対ロシア政策でのG7内部の協調を揺るがすことを恐れる米国を、それぞれ配慮した動きととらえることも、可能に思える。

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筆者

大野正美

大野正美(おおの・まさみ) 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

1980年、朝日新聞社入社。水戸支局、外報部、東京社会部などを経て、1986年からサンクトペテルブルクに留学、モスクワ支局勤務は3回計11年。論説委員、編集委員、国際報道部・機動特派員を経て、現在は報道局夕刊企画班。著書に『メドベージェフ――ロシア第三代大統領の実像』『グルジア戦争とは何だったか』(いずれもユーラシア・ブックレット、東洋書店)など。

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