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[2]立憲デモクラシーの会公開講演会 対米従属=日本の国益という単純化

まとめ:WEBRONZA編集部

内田樹 神戸女学院大名誉教授(フランス現代思想)

 歴史の非常に興味深いところというのは、結局は、一定期間ある期間において有効だった戦略は変質し、機能不全になってしまうことです。成功体験にせよ、小成は大成を妨げるといいますけど、日本はこの二つの成功体験によって、この戦略にいついてしまった。これでいいんだ、と。

内田樹氏内田樹氏
 それまではかなり複雑なマヌーバーを駆使して、日米関係というのをコントロールしていたと思うのです。政治家たちも官僚たちも、あるいは学者やメディアの人々も、日米関係というのは非常に複雑なゲームだと考えていた。そのコントロールのために、かなり知恵を絞っていたと思います。

 そもそもは、基本的に直近の敵ですからね。本来は国益が対立している。対立しているけれども、何とかして、バーター交換で、アメリカの国益を増やす代償として、日本の国益を増大していくという、そういうかなりトリッキーなゲームを展開する、そういう緊張感があった。

80年代からなくなった緊張感

 ところが、僕の知る限り、80年代からそういう緊張感がなくなってしまった。二つの国がそれぞれの国益をかけて、非常に厳しい水面下のバトルを展開しているという感じがなくなってしまいました。成功体験によって、単純に対米従属を徹底しているといいことがあるというだけになった。

 この入力をすると、この出力があるというのが、ペニーガムメカニズムです。銅貨を入れてガンと押すとガムが出てくる。そういうタイプの、アメリカと日本の間の日米関係がブラックボックスになってしまって、対米従属をしているといいことがるという、その仕組みだけがひとつの幻想として、定着してしまった。

 それがだいたい80年代の半ばから終わりぐらいじゃないかと思うんですけれど。これ、結局なんで起きたかというと、時間なんですよ。仕組みそのものの合理性は確かに論ずるまでもないのですが、時間が経ってくると、それを担当する人間が入れ替わるんですね。敗戦直後の時の外交戦略のフロントラインにいた連中は、基本的に日米の国益に齟齬があると考える、これは当たり前です。齟齬あることが分かっていて、面従腹背のマヌーバーを展開していたわけです。

対米従属=日本の国益という単純化

 表面としてアメリカについていくけれども、腹の中では何とかして早く自立したいという、複雑なやりとりをしていたわけですね。それがずっと続いていくと何が起きるかというと、対米従属=日本の国益であるというように単純化されてしまう。

 本来は、それがある回路をたどっていって、結果的に日本の国益が増大するという複雑なメカニズムがあるにもかかわらず、それがが分からなくなってしまう。一方的に対米従属をすることがそのまま、日本にとってよきことであるというそういう種類の非常にシンプルな発想をする人間が増えてきた。昨今の政界、財界、メディア、あと、まあ学界もそうなんですけれど。

 特にアメリカ関係の学界の人がいるとあれなんですけど、アメリカ関係の学界の人たちは、日米同盟基軸以外の選択肢を考えたことがある人っていないと思います。何かの時に、某政治学者と話をいたしまして、「日米関係以外のオプションについてはどう考えられますか」と聞いたら、椅子から落ちてましたからね(会場:笑い)。

 「なんだ、君はいったい」と。そんな雰囲気ですね。「ああ、もう前提なんだ」と思いました。「でも、あなたがアメリカの政治史や政治学を専攻したということはすでに、個人的なそういうキャリアパス形成というものには無意識の欲望がからんでいるわけですから、日米関係が現在のものであり、アメリカが日本にとってプレゼンスが大きければ大きいほど、ご自身が得をするという仕組みの中に入っているわけです。そういうところにいると客観的に日米関係を見られないんじゃないですか」とここまで言いかけて、角が立つからやめたんですけど。

鳩山首相が提起したこと

 ええ、ですから、段々とそういうシンプルなシステムになってきてしまったんですね。これが一番分かりやすかった事例というのは鳩山さんですね。普天間基地の。僕はあの時、報道を注視していましたが、ほんとにびっくりした。2010年でしたか。日本の大きな転換点だったと思います。鳩山首相が、「できたら国外、せめて県外」と言ったわけです。「国内における米軍基地の負担というものを、これをぜひ国外に戻していただきたい」と。

 外国人がですね、恒常的に国内に駐留しているというのは、どの主権国家にとっても恥ずかしいことです。普通はそう考えますよ。外国の基地がずっと常時ある、これは軍事的従属国の

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