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大義なき総選挙の3大争点(1)

安倍政権の独裁的解散と憲法政治

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

大義名分なき解散総選挙と党利党略

 11月21日に衆議院が解散され、総選挙が行われることになった。これは、まさしく日本の命運を左右する総選挙である。それにもかかわらず、この総選挙はあくまでも通常の総選挙のように行われている。

衆院解散を決め会見する安倍晋三首相=2014年11月18日、首相官邸拡大衆院解散を決め会見する安倍晋三首相=2014年11月18日、首相官邸
 安倍首相は、消費増税の引き上げの先送りについて国民の信を問うとし、アベノミクスを問う選挙と説明して「アベノミクス解散」と名付けた。

 しかし、消費増税法には景気条項があって景気が想像以上に悪化すれば増税を先送りできる。だから、この総選挙には大義名分がないという批判が現れている。

 安倍改造内閣は、政治資金疑惑で2人の女性閣僚が同日に辞任し、さらに数人の閣僚に政治資金をめぐる疑惑が現れていた。

 さらに、11月16日には沖縄知事選で自民党の推す現職の仲井真弘多知事が敗北して前那覇市長の翁長雄志氏が当選し、米軍飛行場の辺野古移設に関して、【閣議決定後の日本政治をどう捉えるべきか?(11)――地方からの異議申し立てと憲法「内戦」】で述べたような「地方からの異議申し立て」が行われた。

 そして、今後明らかになる経済データは厳しいものになると予想されている。

 だから、「このままでは安倍内閣に対する支持率は下がることが予測できるのに対し、今なら支持率は比較的高いから、勝てるうちに総選挙を行ってしまおう」というのが、政権の狙いではないか、と推測されている。

 だからこそ、自民党の岐阜県連は年内の解散総選挙に対する反対を決議し(11月15日)、「消費税を解散の大義名分とするのは後付けで、国民のことを一切考えない党利党略」と批判したのである。

独裁的解散

 政治学の権力論では、「(1)決定に影響を与える権力(1次元的権力)」の他に、「(2)ある争点を議題から排除して争点化を妨げる権力(2次元的権力=非決定権力)」と、さらには「(3)人びとの好みに影響を与えて争点の存在を認識させない権力(3次元的権力)」が存在する、と考えている。

 安倍内閣は、議会における圧倒的多数の力を背景に、独裁化ないし権威主義化を疑わせるような権力行使を行ってきた。秘密保護法の立法や、集団的自衛権行使容認の閣議決定がその最大の例である。

 ただ、【閣議決定後の日本政治をどう捉えるべきか?(10)――権威主義化による本当の民主主義の終焉】で指摘したように、完全な独裁政治体制とは異なって、選挙は制度的に廃止できない。そこで、安倍政権は、その時期と争点をコントロールしようとしたのだろう。だから、不自然な時期に解散が行われ、解散権の濫用という声が生じているのである。

 制度的には、この解散は憲法第7条における「天皇の国事行為」に対する内閣の助言規定によって行われている。ただ、ここには内閣が実質的に時期を判断して解散を決定していいと書いてあるわけではないから、衆議院における内閣不信任案可決などに基づく第69条による解散の場合とは異なって、7条による解散には憲法上正当であるという根拠はない。単に過去にこのような解散が行われて慣行化され、裁判所も統治行為論によってそれを違憲と判断しなかったというだけなのである。

 そこで、このような解散の場合は、国民に信を問うだけの根拠が大義名分として必要であるとされてきた。それに対して、今回の解散はそのような大義名分が存在しないと思われるからこそ、野党だけではなく与党からも批判が現れたのである。

 つまり、この解散の決定は、まさしく首相の「専権事項」だとして独断的に権力を行使した結果であり、この権力行使には道理がないように思われる。だから、これはまさしく「独裁的解散」と言えよう。

争点形成をめぐる政治

 さらに、菅官房長官は解散して国民に信を問うことに関して「何を問うか問わないかというのは、政権が決める」と述べた(11月19日の記者会見)。これは、まさしく政権が総選挙の時期やその争点を決めるという考え方の表れであり、争点を形成する権力の行使である。

 しかし、自由な国家の選挙では、政権のそれまでの政治についてもちろん自由に議論が交わされ、野党やメディアからも争点が提起される。そこで、アベノミクスだけではなく、秘密保護法や集団的自衛権行使容認などの政治的論点についても議論がなされうる。

 ここには、争点形成をめぐる政治が存在する。政権が総選挙の論点に関しても権力を行使しようとしているのに対し、野党やメディアが別の論点をも正面から議論の対象にすることができるかどうか。ここに、総選挙における政治が存在するのである。

 解散がなされた今、安倍政権の政治全体に対して野党やメディアからも様々な論点が提起されている。だから、争点形成に関しては、政権側は独裁的権力を行使することには成功しておらず、民主政治にふさわしい政治的過程が進行しているように思われる。

 しかし、これまでのところ、野党などから必ずしも十分に提起されていない重要な争点も存在するように思われる。ここには、争点化を妨げる権力が働いているようだ。以下では、前述の3つの種類の権力に即して、総選挙の大争点を順に考えてみよう。 (つづく)

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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