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大義なき総選挙の3大争点(2)

経済的争点:アベノミクスに実体はあるか?

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

 まず、誰の目にも重要性が明らかなのは、経済的争点である。この論点は、政権が自ら総選挙の争点としているのだから、ここには争点の「(1)決定に影響を与える権力(1次元的権力)」が働いているということになる。

 もっとも、民主党も消費増税の先送りに賛成したから、この点については主要政党の間では大きな違いはなくなった。つまり、この論点については、そもそも総選挙を行う意味はなくなったのである。

20141118名古屋市中区拡大選挙後、株価はどうなる?=2014年11月18日、名古屋市中区
 これに対して、アベノミクスの可否は、確かに重要な争点である。アベノミクスに多くの人びとが期待したからこそ、自民党は前回の衆議院選挙や参議院選挙で圧勝し、安倍内閣はこれまで高い支持率を誇ってきた。

 ところが、7-9月期のGDP実質成長率が年率換算1.6%減で大方の予想より大幅に悪く2期連続の減少となったので、政権も消費税増税を先送りした。だから、政権側もアベノミクスが順調に成功しているわけではないことは認めざるを得ない。

 ここで大きな論点となるのは、「4月の消費税8%への増税の結果として、経済の回復が遅れているのか、それともそもそもアベノミクス自体が失敗しているのか」ということである。

 実際には、消費税増税の前年の10-12月には実質GDPは減少しており、2014年の1―3月期における消費増税前の駆け込み需要による伸びを除けば、それ以来一貫して実体経済は停滞を続けている。

 確かに、「第1の矢」と言われる超金融緩和策の結果、円安と株高は進行して大企業や富裕層は潤ったが、民間金融機関の貸し出しはさほど伸びず、生産の現地化の結果、輸出も想定されたほどは伸びていない。

 これに対して、円安の結果、輸入価格が上がり、物価は高くなっている。この結果、政府は雇用増や賃金引き上げ率の上昇をアピールしているものの、実質賃金は前年比で13年7月から15ヶ月もの間低下を続けている。

 つまり、経済発展の結果として生じる「良いインフレ」ではなく、輸入価格の向上による「悪いインフレ」が生じているのかもしれない。この結果、多くの人びとの生活は苦しくなっている。

 また、「第2の矢」たる「機動的」財政出動は、公共事業を増やして景気を支えているが、その結果、財政はますます苦しくなっている。そして、「第3の矢」たる成長戦略には、はかばかしい成果がなく、順調な経済発展が生じていない。

 政権側は、経済の好循環が始まっているとしているのに対して、野党側は、アベノミクスは失敗していると主張している。この問題は、そもそも

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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