政治的争点:格差問題やTPP、外交・安全保障と原発、政治とカネ
2014年12月02日
安倍政権はアベノミクスを総選挙の争点としようとしているが、こと経済的問題に関しても、争点となりうるのはそれだけではない。
そもそも、民主党政権の誕生の際に大きな問題となっていたのは、格差問題だった。
アベノミクスに関しても、経済成長だけではなく、格差問題に与えた影響も大きな論点になる。自民党は100万人の雇用増をアピールしているが、野党は正規社員の減少と非正規雇用の増加(過去2年間でそれぞれ22万人、123万人)を指摘しており、富裕層の増加と貧富の差の拡大を問題視している。
また、不思議なことに、政権側はTPPの妥結を目指して交渉をしているにもかかわらず、この点を総選挙の論点としてあまり取り上げていない。
しかし、この問題は、消費税の先延ばし以上に、今後の日本の経済や社会に大きな影響を与える可能性が高い。この問題を積極的にとりあげている野党は、重要な争点の提起をしていると言えるだろう。
これらは、純粋な経済政策というよりも、政治や社会とも密接な関わりがあるので、「政治経済問題」と言えるだろう。政権側は、経済的問題に関しても、純粋な経済政策だけを争点として、政治に関わる論点については積極的に主張せず、むしろそれらの争点化を回避しようとしている。
政治的争点そのものに目を向ければ、安倍政権は外交や安全保障問題を重視しているから、これらもその可否が問われるだろう。2013年末に安倍首相は靖国参拝を行い、中韓のみならず、アメリカからも公式の批判を招いた。
そして沖縄の米軍基地問題に関しては、辺野古への基地移設を強行しようとして、沖縄県民の怒りを招き、知事選で自民党は敗北した。総選挙において、本土の人びとはどのような意思を示すのだろうか。
北朝鮮に対しては拉致被害者問題を解決するために経済制裁を部分的に解除して、外務省局長らを10月に平壌に派遣したものの、実質的な成果はなかった。これは、どのように評価されるべきなのだろうか。
中国に対しては、領土紛争をめぐって関係悪化が続き、「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が続いていることについて異なる見解を有していると認識」という合意の上で、習近平国家主席との会談が実現した(11月10日)。
このことは日中関係がさらに悪化して武力紛争にエスカレートする危険性を減少させるものだから、首脳会談が実現したこと自体は望ましい。しかし、日中関係を悪化させた上でこのような譲歩を行って関係修復を図るのは、外交として成功なのかどうか。
さらに、秘密保護法制定や集団的自衛権行使容認の閣議決定も、安全保障に関する重要な論点である。特に集団的自衛権行使容認は、専守防衛に限定してきた日本の国是を変えて、日本が再び海外で戦争に加わる道を開く。
もし、内閣が信任されるならば、2015年にはこれらを法制化して、実際に自衛隊を海外に派兵することが可能になり、日本が海外で戦争を行うことが可能になるだろう。
消費増税の先送りについては、解散総選挙によって民意を問う必要がないのに対し、このような問題は、まさに日本という国家の根本的な理念や政策を変更する大問題である。
それにもかかわらず、安倍政権はこれらの問題で民意を問おうとはせずに、アベノミクスに焦点を絞って民意を問おうとしている。これは、民主主義の理念から見て適切だろうか? 総選挙という最も重要な国民の主権行使を、自らの権力保持のための手段として用いていると言わざるを得ないように思われる。
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