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「与党圧勝と右翼後退」というパラドックス(下)

驕る安倍政権は久しからず?

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

憲政の決壊――解釈改憲と明文改憲

 総選挙の結果を憲政との関係で考えてみよう。

 今回の解散総選挙は、もし与党が大敗して野党が大勝すれば、集団的自衛権行使の法制化を阻止する可能性を開くものだった。しかし、野党はこの大チャンスを逃し与党が大勝した結果、政権は2015年に集団的自衛権の行使容認を法制化することが思いのままにできることになった。

街頭演説会に足をとめる有権者たち=13日午後7時57分、東京・新宿拡大次の参院選は2016年。民意の行方は?
 これは、解釈改憲が法制化されることを意味し、憲政がついに法的に決壊することを意味する。これは、立憲主義をはじめとする近代的な政治と民主主義の危機そのものであり、政治体制の権威主義化をもたらしかねない。

 安倍首相は選挙戦中にはアベノミクスを争点として強調し、可能な限り集団的自衛権問題や憲法問題にはふれなかったが、選挙が終わった途端に、これらについての意欲を公言した。

 これは、「大義なき総選挙の3大争点(4)――憲法的争点:憲政を侵犯する権威主義か、民主主義か?」で指摘したように、批判する側からすれば詐欺的行為ではあるが、合法的な政治的戦略ではあるので、それを見破れない有権者にも責任の一端はある。

 ただし、前回の参議院選挙では、「与党+維新の会+みんなの党」だと改憲の発議が可能な162議席ちょうどだったが、その後、「みんなの党」が解党し、「維新の会」も分裂したので、現在の参議院では与党は「次世代の党」の協力を得ても、3分の2以上を得て改憲を発議することはできなくなっている。

 今回の総選挙でも右翼的政党が後退したように、極右的ないし右翼的な改憲勢力が弱まったので、次の参議院選挙まで明文改憲はできなくなったのである。

 つまり、与党の大勝は、集団的自衛権行使容認という解釈改憲を確実にしたが、右翼の後退は、第9条をはじめとする明文改憲をすぐに行うことは困難にした。とはいえ、解釈改憲が成就すれば、安倍首相は次の段階として、明文改憲を狙おうとするだろう。

 この帰趨は、次の参議院選挙にかかってくることになる。しかし、次の参議院選挙で自民党が単独で3分の2を確保するためには、改選議席121議席の中で97議席を確保する必要がある。他の改憲政党の協力を得るにしても、このような中で改憲の発議のための議席を確保するのは、相当に高いハードルである。

安倍政権を待ち受ける難局

 このように、今回の総選挙では、「与党が圧勝したのに、右翼的政党政治は後退した」という一種のパラドックスが生じている。

 これは、憲法改定を目指す政権の右翼的姿勢や準極右的体制変革が支持されたわけではなく、多くの人々はアベノミクスにまだ期待をつなぎ、野党を積極的に支持できないので消極的に与党を支持したからだろう。

 だから、たとえば総選挙直後の世論調査で、与党の圧勝を「よくなかった」と思う人は46%で、「よかった」の38%を上回り、自民党の支持率が前回より5%下がったという驚くべき結果が報じられている(読売新聞12月17日)。

 つまり、このようなパラドックスが生じたのは、

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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