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フランスの襲撃事件と中東のミリタリズム(上)

欧米で武装テロが続く転換点か?

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 フランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」の襲撃事件は、イスラム過激派によるテロの脅威を如実に示した。

 この事件で、注目しなければならないのは、大量の武器を用意して実行された武力攻撃だったという点だ。9・11事件後に起きた欧州でのイスラム過激派のテロといえば、マドリッドの列車爆破やロンドンの地下鉄爆破など、爆弾テロばかりだったが、今回は、武装した都市ゲリラの行動のような変貌を見せている。

フランス新聞社襲撃事件に抗議する若者たち=撮影・林瑞絵
 テロの形態だけでなく、イスラム預言者の風刺に対するイスラム教徒の反応と考えれば、かつては抗議のデモだったのに、今回は新聞社に対する武装襲撃である。そこに過剰なミリタリズムを見る。

 この事件は、今後対応を誤れば、欧米で同様の武装テロが続く転換点になるかもしれない。考えなければならないのは、パリの中心部で、過激な武闘派の行動が起こる背景として、中東でのミリタリズムの蔓延があるということである。

 国家のレベルでは「軍国主義」などと訳されるミリタリズムだが、反体制組織が選挙参加やデモという平和的合法的な手段ではなく、武装闘争やテロ手段によって政治的な目的を達成しようとする武闘主義や武断主義もまたミリタリズムである。

 爆弾テロは爆弾を入手または製造すれば軍事的には素人でもできるが、自動小銃などを使ったゲリラ型テロは、訓練が必要であり、武器の準備や作戦の立案から実際の戦闘まで軍事的にはレベルが上がる。

 報道によると、新聞社襲撃の実行犯は、編集会議の場に入って、イラストレーターらの名前を確認して殺害したとされる。さらに新聞襲撃とは別に起きた警官襲撃事件の容疑者が事前に連絡をとり、武器購入で協力していたとの情報もある。

 新聞社襲撃の容疑者の兄弟のうち兄は2008年にイラク戦争後に駐留米軍と戦うための戦闘員を送ろうとした容疑で実刑となり、弟は2011年にイエメンのアルカイダで軍事訓練を受けたとされる。

 メディアは事件の容疑者と、国外、特に中東とのつながりを探ろうとしている。

 AP通信はイエメンの「アラビア半島アルカイダ」のメンバーの話として、「アルカイダ指導部が攻撃を指示した。イスラム教徒の神聖なものを汚したためだ」と語ったとする。

 朝日新聞によると、フランスのテレビ局の電話インタビューに対して、新聞社を襲撃した容疑者の兄が、「イエメンのアルカイダによってここに送り込まれた」とし、アラビア半島アルカイダの有力指導者の資金援助を受けたと語ったが、支援を受けた時期は2011年より前という。今回の事件は、イエメンのアルカイダの直接の指令というよりも、「イスラムの敵に報復せよ」というかつてのアルカイダの指導者ビンラディンが唱えた原則を実行したということであろう。

 一方、警察襲撃からユダヤ系商店で人質事件を起こした別の容疑者は、自らが「イスラム国」に属しているとし、「イスラム国」の最高指導者であるカリフを名乗るバグダディ師に忠誠を誓うビデオがインターネットで流れている。

 行動の理由について、「フランスが『イスラム国』とカリフを攻撃したからだ」と答え、フランスが「イスラム国」攻撃から手を引くことを求めた、という。だが、「イスラム国」には行ったことはないという。

 こちらも「イスラム国」からの指令を受けて行動を起こしたというよりも、米国とその支援国による「イスラム国」への空爆に報復せよという一般的な指令を実行に移したということであろう。

 どちらも、今回の軍事行動は、アルカイダや「イスラム国」からの個別の指令ではなく、支持者として、独自の判断で起こしたと考えたほうがいいだろう。

 しかし、なぜ、いま、過激なテロが起こったのだろうか。

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