有識者会議とオバマ政権との板挟みも
2015年01月15日
米国務省報道官が行う定例記者会見は通例、12時以降に始まる。最初に報道官がその日の公式発表やお知らせを行い、記者団から質問を受ける。
いつも記者席の前に陣取る米主要メディア、AP通信やワシントン・ポスト紙などの記者が質問し、報道官は記者の名前をファーストネームで呼ぶ。
私が国務省を担当して後部の席に座り、初めて質問したとき、前に座った米国人記者たちが一斉に後ろを見たのでたじろいだ。もちろん恥ずかしいが、顔と名前を覚えてもらえば、後で何かいいことがあるかもしれない、と耐えて質問した。当時の報道官はそのうち「ミキオ」と呼んでくれるようになった。
私が所属していた通信社のワシントン支局は記者10人を超す大所帯なので毎日会見に出ることができたが、会見に出席する日本人記者はまれだった。今は会見の一問一答がネットに掲載される。
新年初となった1月5日の定例会見。7番目のテーマとして、日本関係の質問が出た。挙手した記者のファーストネームはエリオットだ。
「安倍首相が年頭の記者会見で戦後70年に後悔の念を表明する声明を出すと発言したが、何か反応はありますか」
それに答えて、サキ報道官が述べた。
「安倍首相の発言は見た。ご存じのように、われわれは何度も見解を示してきた。村山(富市)元首相や河野(洋平)元官房長官が述べた謝罪は、日本の近隣諸国との関係改善の努力における重要なチャプター(章)を指し示した、というのがわれわれの見解だ。何度も示唆したように、われわれは日本に対して、対話を通じた友好的な方法で近隣諸国と歴史に関する懸案を解決する作業を続けるよう督励する」
「既に発表された談話があり、それ以上に事前に言うべきことはない」
と答えた。
このあと2回記者団とのやりとりがあるが、談話はもう公表されているのだから、「それ以上付け加えることはない」と繰り返した。
1月6日付朝日新聞夕刊は「村山・河野談話の趣旨 米が継承望む見解」との見出しを付けたが、その通りだった。
既に村山談話や河野談話が出ているではないか、それ以上に何を言い出すのか。余計なことを言わなければいいのに――といったところが米国務省の本音だろう。
国務省は、毎日の定例ブリーフィング向けに、質問が予想される問題について各部局から事前に「プレスガイダンス」と呼ばれる模範回答を集め、報道官が分厚いバインダーに入れて会見に臨む。安倍首相発言についてももちろん回答を準備し、報道官が読み上げたというわけだ。
しかし、この米政府の公式見解発表で日米間の思惑の違いが表面化した。そして、岸田文雄外相は急きょ1月6日、ケリー米国務長官と電話会談した。
それを受けて、ワシントン時間で翌6日のサキ報道官会見のトーンが一変した。
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