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安倍談話は「普通の感覚」を取り戻す好機

日韓の首脳は、一部の支持に固執するのか、多数派の思いに従うのか

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 1月5日、安倍晋三首相は年頭の記者会見の中で、終戦から70年を迎える今年の8月15日に談話を発表すると宣言した。

 発表の目的としては「世界の平和と安定に一層貢献する明確な意思を世界に発信したい」とし、従来の首相談話、特に村山談話(正式名称:戦後50周年の終戦記念日にあたって)を継承するとの立場を明らかにした。

 その発言や談話に対しては、各国から注目が集まっている。韓国メディアにおいては安倍首相の談話に関して、2014年12月の衆院選大勝の時、既に話題になっていた。また、アメリカでも、政府関係者が総理の会見後、談話についての発言を行うなど関心は高い。

 そうした状況に置かれ、議論もなされている安倍首相の談話であるが、果たしてどのようなものが国内外で求められているのかについて、本稿では考えてみたい。

オランダ・ハーグで25日、3カ国による首脳会談に臨む(右から)安倍晋三首相、オバマ米大統領、朴槿恵韓国大統領20140325拡大「安倍談話」を機に、日韓首脳の距離は近づくだろうか=2014年3月の日米韓首脳会談(オランダ・ハーグ)
 そもそも、首相談話の性格とはどのようなものであろうか。

 国内的には、「○○談話」といった形で首相や大臣クラスの発言の一つとして記憶される。ただ、国際的には首相の談話は正式な国家の立場を表明するものとされる。

 具体例を挙げれば、村山談話が発表された1995年はドイツとフランスの共通歴史教科書において、「日本が植民地支配に公式謝罪を行った年」として記載されている。

 そうした首相談話に対して、かつて安倍首相は「安倍内閣として村山談話をそのまま継承している訳ではありません」(2013年4月22日の参議院予算委員会における白眞勲議員との自らの談話に関する質疑より)と自らの立場を表明した。

 その発言は問題があると考えたのか、繰り返されることはなく、その後、安倍政権は村山談話を継承するという表現を一貫して用いている。

 そうした過去の姿勢と、新たな談話を出す方針が示されたことで、韓国国内では「従来の姿勢が堅持されないのではないか」あるいは「覆されるのではないか」という疑念が存在している。これは談話に限ったことではなく、これまで日本において謝罪と失言(韓国の表現では「妄言」)が繰り返されてきた歴史に根拠がある。

 加えて、第二次安倍政権以降の幾つかの行動がその懸念を高めている。

 第一に、2013年4月23日の参議院予算委員会での過去の侵略(あるいは侵略の定義)への疑義表明、第二に、2013年12月26日の安倍首相の靖国神社参拝、第三に2014年6月に出された河野談話に対する検証報告書の内容や検証チーム形成の経緯等が挙げられる。

 これらは行動や発言を行う前から、韓国での反発は容易に想像できたことである(河野談話への韓国側の反応は2014年3月の時点で「河野談話への一貫した姿勢が日本の信頼を高める」として本サイトにて拙稿を発表)。

 そうした姿勢に対して「日本は本音では謝罪の意志は無く、嫌々行っていることではないか」という疑念が常に韓国にあり、なかなか印象が好転しないのである。

 一方、日本においても、近年、対韓意識の悪化が指摘されている。

 確かに、もともと一定数は韓国に批判的な人は存在していたし、そうしたテーマの書籍や記事などもある程度は刊行、発表されていた。しかし、それらは主流とはなり得ず、内閣府による世論調査(外交に関する世論調査)を見ても90年代後半から2000年代にかけて日韓両国は良好な関係が続き、筆者が日本で暮らしていても、様々な韓国の物品が身近に増えてきたように感じられた。

 ただ、2012年の李明博大統領の竹島上陸を機に、日本人の韓国に対する印象は大きく様変わりしてしまった。

 その後の天皇への謝罪要求、あるいは後を継いだ朴槿恵大統領の頑なな姿勢は、日本での生活が長く、日本人の感情が理解できる多くの韓国人にとって、その後の関係悪化が容易に予想されるものであった。

 残念ながら、その予想は当たり、各種世論調査でも日韓関係を否定的に捉える層が多くなり、友好を訴える人が非主流派になってしまった。

 日頃目にする新聞や電車の中刷り広告でも、韓国や朴槿恵大統領を批判したり、揶揄する記事は「売れる」という理由で氾濫し、今や書店に行けば友好をうたう本を探す方が難しい時代となっている。そして、韓国においても日本の否定的な反応を見て、一層反感が高まり、双方の意識がらせん階段を上るように悪化している。

 加えて、韓国国内では強硬な対日姿勢を支持する団体が注目を集めやすく、彼らからの支持層を取り込むために朴槿恵大統領が強硬な姿勢を就任当初に採ったことから、その姿勢を維持せざるを得ない状況も生まれている。ある意味で、日韓両国は首脳同士が対立に拍車をかける姿勢をとっているのである。

 そうした中で、今回の談話発表の予定が公表された訳であるが、安倍首相は談話では「今後アジア太平洋地域や世界にどのような貢献を果たすか」を表明するとしている。

 では、現在、アジア太平洋地域における日本の懸案や貢献できる部分とは何かといえば、東アジアにおける安定的な関係改善が最初に挙げられるのではないだろうか。換言すれば、この夏に安倍首相が発表する談話は、東アジアに友好を呼びかけると共に、過去への真摯な姿勢を明示するものではなければなるまい。

 こうした主張を行うと、一方で「韓国は日本が嫌いで、友好的な姿勢を望んでいないのではないか」との反応がしばしば見られる。 ・・・ログインして読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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