本当の「美しい国」とは?
2015年01月31日
前稿の後、痛ましくも湯川遙菜氏は殺害されたと思われ、1月31日時点では後藤健二氏の解放交渉がヨルダン政府によって行われており、日本国民の多くは、はらはらしながらその行方を見守っている。
人質事件、「積極的平和主義」と日本人のリスク――イスラーム文明に対する日本文明の役割とは?
この事件は、安倍首相の中東訪問におけるメッセージが直接のきっかけになった。
だからこそ、「イスラム国(IS)」側が後藤氏に「アベ、お前がハルナを殺した。われわれをとらえていた者の脅迫を真に受けず、72時間以内に行動しなかった」と述べさせたように、「イスラム国」はストレートに安倍首相に対してメッセージを発しているのである。
この結果、「イスラム国」側は、日本の首相は、アメリカが主導する「十字軍」に参加を志望したと受け取ったわけである。
現に、「イスラム国」側は、支配地域の住民のインタビュー映像を公開し、「米国による広島、長崎の(原爆投下による)虐殺を忘れ、なぜ米国がイスラム教徒を殺害するのに手を貸すのか」「十字軍(米欧)連合に参加するという過ちを犯した」などと批判させた(1月29日)。
安倍首相がこのようなメッセージを発信したのは、首相が「積極的平和主義」を世界に向けて発信しようとしたためである。
フランスで週刊誌テロ事件が起きたので外務省内から今回の首相の中東訪問について「タイミングが悪い」という声があがったのに対し、首相は「フランスのテロ事件でイスラム国がクローズアップされている時に、ちょうど中東に行けるのだからオレはツイている」とか「世界が安倍を頼りにしているということじゃないか」とも言っていて、周囲は異様に感じたという(『週刊ポスト』2月6日号)。真偽のほどは定かではないが、首相は意気軒昂だったのだろう。
だからこそ、首相は積極的にメッセージを発信し、「イスラム国」はそれに反発して、このような事件を引き起こした。
政治は結果責任の世界だから、ここには、首相の政治責任を問う可能性がある。すでに、民主党の小川淳也議員は、カイロでのスピーチに「曲解される、あるいはつけ入られる恐れがある」と衆院予算委員会で指摘した(1月29日)。安倍首相の不用意なメッセージによって、日本は「文明の衝突」に巻き込まれてしまったわけである。
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