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 「イスラム国」による日本人拘束事件は、安倍首相が掲げる「積極的平和主義」によって日本人が中東で敵視される危うさを露呈させた。

 事件は、安倍首相の中東歴訪のさなかで、それも首相のカイロでの演説を受ける形で起きた。「イスラム国」が後藤健二さんと湯川遙菜さんの二人を並べて「72時間以内に身代金2億ドルを払え」という動画メッセージを出した時、覆面をした戦闘員はナイフをかざしながら、「日本が(欧米の)十字軍に参加した」と非難した。

 この後、エルサレムで行われた安倍首相の記者会見では、日本の2億ドルの支援について「非軍事的な分野」で、「地域で家を無くしたり、避難民となっている人たちを救うため、食料や医療サービスを提供するための人道支援です」と強調した。

 日本でも「『イスラム国』は日本が戦争に参加していると誤解している」という論調がかなりあった。しかし、中東での報道をみるかぎり、日本の立場についての「誤解」は日本の側にあるというしかない。

 邦人二人を人質にとり、身代金を求めて、湯川さんを殺害した「イスラム国」の行為は明らかなテロであり、決して許されない。この原稿を書いている1月30日時点で、残った後藤さんは解放されていない。後藤さんが無事に解放されることを祈るが、日本人が「敵視」されたこの事件を考えるうえで、今回の安倍首相の中東歴訪の意味を考察する必要がある。

 安倍首相はカイロでの「中東政策スピーチ」の中で、「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISIL(『イスラム国』)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と述べている。

「イスラム国」が声明の冒頭で映したBBCアラビア語サイトで安倍首相のカイロ訪問。「安倍は非軍事的援助で『イスラム国』への戦争を支援」とある拡大「イスラム国」が声明の冒頭で映したBBCアラビア語サイトでの安倍首相のカイロ訪問。「安倍は非軍事的援助で『イスラム国』への戦争を支援」とある=筆者提供
 「イスラム国」の最初のビデオの声明では、冒頭に安倍首相の中東歴訪を伝えるNHK国際放送の画像とともにBBCのアラビア語インターネットサイトが映し出される。

 そのBBCニュースはアラビア語で「安倍は非軍事的な援助によって『イスラム国』に対する戦争を支援する」という見出しになっている。

 BBCのニュースは首相のスピーチを受けたものだ。

 見出しは「非軍事的」なものであることを承知した上で、日本が「イスラム国」に対する「戦争(ハルブ)への支援」という言葉をつかっている。

 「イスラム国」は、日本が「戦争支援」と強調するためにBBCの見出しを選んだと思うかもしれないが、 ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

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