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[4]集団的自衛権の行使は地球規模の問題

COIN戦略に沿った、日本にしかない「主体性」をもった非武装の貢献を

伊勢崎賢治 東京外国語大学大学院教授

 現在の話をします。ここからが自衛隊にかかわることです。アメリカは、その軍事ドクトリンをしばしば書き換えるのですが、その最近のは2006年。陸軍と海兵隊の軍事行動を方向づけるドクトリンです。

「ゲリラは民衆の海を泳ぐ魚である」

伊勢崎賢治氏は「日本にしかない主体性をもった非武装の貢献を」と語る拡大伊勢崎賢治氏は「日本にしかない主体性をもった非武装の貢献を」と語る

 書き換えたのが、ペトレイアス将軍です。イラク、アフガンの最高司令官で、オバマ政権のときにCIA長官に任命され、セックススキャンダルで辞めた人ですね。

 その軍事ドクトリンでは、毛沢東の言葉が引用されています。「ゲリラは民衆の海を泳ぐ魚である」。この戦略で毛沢東は抗日戦、我々に勝利したわけです。非対称戦、つまり、ゲリラ戦です。通常戦力で勝る日本軍がゲリラにやられちゃったわけです。

 ゲリラは民衆に紛れ込んでしまう。そして、民衆というのは殺しにくい。当時だって国際法はありましたから、基本的に民衆を傷つけちゃいけない。それをやってしまうと、国際社会を敵にすることになるわけですから。だからゲリラが強いのです。

 アメリカの新軍事ドクトリンは、これを逆手に取れと言っているわけです。

 ゲリラ、つまりテロリストは民衆の海を泳いでいるのだから、これに対抗するには民衆をこちら側につけるしかない。そうするとゲリラである魚はぴちぴちと干上がる。それをやっつければいい。つまり、民衆の帰依の獲得、人心掌握です。

COINという戦略

 2006年以後、これが実行されるわけですけれども、現場での流行のスローガンというのは「Winning the People」です。「Winning the War」じゃないです。日本語に訳しにくいんですけれども、民衆と共に勝とうという感覚。民衆に勝つではないですよ。民衆の帰依を勝ち取るみたいなことですね。

 これが通称COIN、Counter Insurgency Field Manualというものです。もちろん軍事ドクトリンですから、軍事行動は否定しません。民衆をこちら側につけてたたきやすくする。その民衆を引き付けるにはどうしたらいいか。民衆が帰依できるホスト・ネーションをつくるということです。

 では、具体的にどういうことをやるのか。まず、「法の支配」。そして、開発です。ならず者の「法の支配」が入ってこないように、ホスト・ネーションとして沙汰を提供する。健全な国軍、警察、そして司法制度です。それに加えて、開発事業です。民衆の根幹のアメニティのニーズに答える。これがCOINの基本です。

 これは2006年にアメリカのペトレイアス将軍がイラクの最高司令官のときに書きかえたものです。別名ペトレイアス方式といいます。イラクは短期間ですけど部分的に成功しました。

 彼がイラクに行く前に、僕らは現場、アフガニスタンでは、今まで説明したきたように、このホスト・ネーションづくりが先行していたのです。武装解除が成功したので、アフガニスタンでのホスト・ネーション建設が、うまく行くのではと、期待が高まっていたころです。COINの成立はこのアフガンの経験が基になっています。

 イラクでのちょっとの成功の後、ペトレイアス将軍は泥沼化したアフガンに転任し、泥沼の戦況は今に至るわけです。これが対テロ戦戦略の系譜です。

 COINですけれども、アメリカと一緒に戦っている英国、カナダも、それぞれのCOINを編み出しました。ブリティッシュCOIN、カナディアンCOINとして。何がオリジナルCOINと違うのか、やっぱり彼らは同盟といっても、主体性がありますから。COINがうまくいかないのは、アメリカがやるからだ、と。アメリカにない特性を生かして、もっとうまくCOINをやろう、と。同盟とは、こういうものなのです。

全体としては失敗の連続

 でも、全体として、NATOとして、COINは失敗しています。

 なぜ、COINは結果を出せないのか。概念そのものがいけなかったのか。それともこれは単にアメリカを中心として、やり方が間違っていたか。僕は後者だと思っています。だってCOIN以上の概念はあり得ないでしょう。いいホスト・ネーションをつくって、テロを棲みにくくする。いいに決まっているじゃないですか。

 2014年末、アフガニスタンからアメリカ・NATO軍が撤退します。重大な「力の空白」が生まれます。「タリバン化」は不可避です。うまく、政治単位として“おだて上げ”、政治的な和解がうまくいけばいいと思いますが。

 アフガニスタンだけでタリバン化が終わってくれればいいんですけど、問題はすべての元凶パキスタンです。進行するパキスタンのタリバン化にこの「力の空白」はどういう影響があるのか。

 こちらのタリバン化は、アフガンよりも、凶悪だと我々は認識しつつあります。マララちゃんを撃った連中です。「イスラム国」との共闘も表明しています。アフガン・タリバンには、 ・・・ログインして読む
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筆者

伊勢崎賢治

伊勢崎賢治(いせざき・けんじ) 東京外国語大学大学院教授

東京外国語大学大学院「平和構築・紛争予防講座」担当教授。1957年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。国際NGOでスラムの住民運動を組織した後、アフリカで開発援助に携わる。国連PKO上級幹部として東ティモール、シエラレオネの日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を指揮。著書に『武装解除――紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略』(NHK出版新書)など多数。