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 シリアとイラクにまたがるイスラム過激派組織「イスラム国」による日本人拘束事件で、湯川遥菜さんと後藤健二さんの日本人2人が殺害された。この事件は、日本がこれから「イスラム国」にどのように対応するか、というだけではなく、中東に対してどのように関わるかという重大な問いを突き付けている。 

 安倍首相がカイロでのスピーチで、「日本は、自由と民主主義、人権と法の支配を重んじる国をつくり、ひたすら平和国家としての道を歩み、今日にいたります」と語った。

 しかし、日本が支援しようとしている中東の国々で、「自由と民主主義、人権と法の支配」を重視している政権はどこにあるというのだろうか。

 安倍首相が演説をしたエジプトでは、1月25日に民衆革命4周年で若者たちのデモがあったが、20人を超えるデモ隊が治安部隊の銃撃で死に、国際的な人権組織「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)」は「エジプト政府の過剰な武力行使は独立機関によって捜査されるべきだ」と主張している。

 「イスラム国」という怪物を生み出したのは、米国によるイラク戦争と、戦後の武力行使中心の占領政策であり、さらにシーア派政権の力でスンニ派を抑える強権的な手法であり、シリア内戦でのアサド政権による軍事力に任せた弾圧政策である。

カイロのタハリール広場で、ムバラク大統領の退陣後、軍の装甲車に上がって喜び合う市民たち 201102拡大2011年2月の「アラブの春」。エジプト・カイロのタハリール広場で、ムバラク大統領の退陣を喜ぶ市民
 4年前に若者たちがカイロのタハリール広場を埋め、「アラブの春」の象徴だったエジプトで、民主的な選挙で選ばれたイスラム系の大統領が軍によって排除され、いまではイスラム系組織だけでなく、若者たちのデモも抑えられているエジプトの状況も、若者たちの失望と落胆を生み出している。

 安倍首相は中東の「過激主義」について警告したが、「過激主義」は「イスラム国」のようなイスラム過激派組織だけにあるのではなく、「アラブの春」で若者たちからわき上がった民主化や自由を求める要求を力でつぶした中東の各政権側にもある。

 フランスでのイスラム過激派の若者が銃で武装して新聞社を襲撃した事件について、記者やイラストレーターを殺害するような荒っぽい手法の背景にあるものとして「フランスの襲撃事件と中東のミリタリズム」(上、下)として書いた。

 「イスラム国」が見せる残虐な行為と、フランスでの新聞社襲撃事件は、すべてを戦争という枠でとらえ、「敵」を力で排除しようという思考が共通している。しかし、同じ思考は ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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