メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[4]「闘う」決意より、命と生活のための支援を

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 安倍首相は2013年9月の国連総会演説で、日本の中東への関わりとして、ヨルダンの南部地域で、「女性の地位向上や家族計画」プロジェクトにマネジャーとして関わったJICA(国際協力機構)の佐藤都喜子さんの名前を挙げて取り上げた。

 「女性の地位向上」や、子供の数を減らそうとする「家族計画」など、伝統的なイスラム世界の価値観には異論もあり、アラブ人の人口を減らし、アラブ世界を弱体化させる狙いではないかと批判されかねない。

佐藤都喜子さん拡大佐藤都喜子さん
 佐藤さんはほとんど不可能としか思えないプロジェクトを10年以上にわたって継続し、実際に地元の部族にも受け入れられていた。

 その秘密はなぜかと考え、私はこのプロジェクトを現地で取材したことがある。

 私が感じたのは、佐藤さんや、彼女のスタッフの熱意によるところは大きいが、大きな前提は、日本のプロジェクトだったからだということである。

 アラブ世界、イスラム世界に対する植民地支配や軍事介入など、様々な過去の負の遺産を抱える欧米のプロジェクトであれば、いかに「人道主義」や「社会開発」を強調しても、決してアラブ・イスラム社会では受け入れられなかっただろう。

 佐藤さんのプロジェクトが実施されたのは、くしくも、今回、「イスラム国」に拘束されたヨルダン人パイロットの出身地であるカラク県である。

 山がちな貧しい地域であり、部族の伝統が根強く残る。

ヨルダンのカラク県でJICAが実施した女性の地位向上のための事業の支援を受け
て、ヤギの飼育を行った女性と夫=2007年7月、川上泰徳撮影
拡大ヨルダンのカラク県でJICAが実施した女性の地位向上のための事業の支援を受け、ヤギを飼育している女性と夫=2007年7月、撮影・筆者
 そこでヤギの飼育やハチを育てる養蜂などの少額の事業資金を女性たちに提供し、現金収入を得る方法を指導し、同時に家族の在り方とともに実践した。

 私は佐藤さんと一緒にカラク県を回り、何人もの参加した女性たちに会ったが、女性たちがほとんど表にでない地域で、私のような外国人ジャーナリストの質問に、堂々と答える女性たちの変化に驚いた。

 女性たちは収入を得たことで、初めて夫と

・・・ログインして読む
(残り:約1749文字/本文:約2522文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

川上泰徳の記事

もっと見る