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「イスラム国」を「法で裁く」には(上)

長期的視野に立った介入を

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

直情的な怒りへの懸念

 年明け以来、フランスの出版社襲撃テロやその後の鎮圧活動などでヨーロッパにおける危機が伝えられ、テロに対する関心が世界的に高まった。

 その中で、1月20日、「イスラム国」に拘束された湯川遥菜氏と後藤健二氏を人質に、日本政府に対する要求を伝えた画像が公開されて以来、世界の目は日本と中東に集まった。

 その後の殺害に至る経緯は説明するのも痛ましいほどであり、彼らが無差別人質テロの犠牲になったことは、「イスラム国」という従来の認識ではありえない行動をとる組織が大規模化した事実を改めて我々に突き付けた。

後藤さんと湯川さんの追悼集会 「イスラム国」人質事件/福岡 20150209拡大湯川遥菜さんと後藤健二さんを追悼する集会が各地で開かれている=2015年2月9日、福岡
 そうした展開の中で、後藤氏が殺害されたと見られる映像が投稿された2月1日の朝、安倍首相は記者団に対し「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく」と述べた。

 加えて、人道支援の充実を挙げつつ、現行の有志連合の対応を強く支持した。

 その文言は9・11同時多発テロ直後におけるアメリカの政治家の言説に類似しており、同時期にアメリカでテロ研究を行っていた筆者には極めて危ういものと感じられた。

 翌日の参議院予算委員会では、「イスラム国」に対して「どれだけ時間がかかろうとも、国際社会と連携し、追いつめて法の裁きを受けさせる」と法的対応を前面に置くものへ安倍首相の発言内容は変えられた。

 とは言うものの、「テロリストへの法の裁き」という言葉を頻繁に用いたアメリカ政府が、多くの逸脱行為を行い、最終的にビンラディン容疑者の殺害に至るまで適切な裁きを行わなかった記憶は再び筆者に懸念を抱かせるものとなった。

 また、後藤氏との交換交渉の中でヨルダン政府が名前を出したモアズ・カサスベ中尉の殺害の様子は、生きたまま焼き殺すという凄惨なものとなった。

 それを受けてヨルダンは休止していた「イスラム国」への空爆を再開し、後藤氏との交換条件として「イスラム国」が挙げた女性死刑囚サジダ・リシャウィの死刑を執行した。報復という暴力の連鎖が状況を悪化させるのもまた、テロをめぐるこれまでの歴史が繰り返してきた悲しい慣例である。

 日本もヨルダンも「イスラム国」の非道な手法に強い怒りを感じており、それは筆者も変わるものではない。

 しかし、それが単なる軍事力や暴力による報復に終わってはならないし、各国が目指す「法の裁き」も将来に禍根を残すものであったり、建て前であってはならない。

 国内法が意味をなさない「イスラム国」に対して、法として適用できるものは戦時国際法であろうし、個人を裁くことのできる国際刑事裁判所は十分に活用可能である。そこで、本稿では、その基礎要件と、世界が目指すべき方向について検討していきたい。

国際刑事裁判所による対応の可能性

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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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