長期的視野に立った介入を
2015年02月11日
年明け以来、フランスの出版社襲撃テロやその後の鎮圧活動などでヨーロッパにおける危機が伝えられ、テロに対する関心が世界的に高まった。
その中で、1月20日、「イスラム国」に拘束された湯川遥菜氏と後藤健二氏を人質に、日本政府に対する要求を伝えた画像が公開されて以来、世界の目は日本と中東に集まった。
その後の殺害に至る経緯は説明するのも痛ましいほどであり、彼らが無差別人質テロの犠牲になったことは、「イスラム国」という従来の認識ではありえない行動をとる組織が大規模化した事実を改めて我々に突き付けた。
加えて、人道支援の充実を挙げつつ、現行の有志連合の対応を強く支持した。
その文言は9・11同時多発テロ直後におけるアメリカの政治家の言説に類似しており、同時期にアメリカでテロ研究を行っていた筆者には極めて危ういものと感じられた。
翌日の参議院予算委員会では、「イスラム国」に対して「どれだけ時間がかかろうとも、国際社会と連携し、追いつめて法の裁きを受けさせる」と法的対応を前面に置くものへ安倍首相の発言内容は変えられた。
とは言うものの、「テロリストへの法の裁き」という言葉を頻繁に用いたアメリカ政府が、多くの逸脱行為を行い、最終的にビンラディン容疑者の殺害に至るまで適切な裁きを行わなかった記憶は再び筆者に懸念を抱かせるものとなった。
また、後藤氏との交換交渉の中でヨルダン政府が名前を出したモアズ・カサスベ中尉の殺害の様子は、生きたまま焼き殺すという凄惨なものとなった。
それを受けてヨルダンは休止していた「イスラム国」への空爆を再開し、後藤氏との交換条件として「イスラム国」が挙げた女性死刑囚サジダ・リシャウィの死刑を執行した。報復という暴力の連鎖が状況を悪化させるのもまた、テロをめぐるこれまでの歴史が繰り返してきた悲しい慣例である。
日本もヨルダンも「イスラム国」の非道な手法に強い怒りを感じており、それは筆者も変わるものではない。
しかし、それが単なる軍事力や暴力による報復に終わってはならないし、各国が目指す「法の裁き」も将来に禍根を残すものであったり、建て前であってはならない。
国内法が意味をなさない「イスラム国」に対して、法として適用できるものは戦時国際法であろうし、個人を裁くことのできる国際刑事裁判所は十分に活用可能である。そこで、本稿では、その基礎要件と、世界が目指すべき方向について検討していきたい。
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