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ハンガリー訪問とプーチン東方外交の虚実(上)

EU加盟国から歓迎された意味

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

 このところ欧州方面の報道は、ウクライナでの新たな停戦合意と、それに暗雲を投げかけた親ロシア派武装勢力による要衝デバリツェボの陥落で持ちきりだった。

 その間、あまり注目はされなかったが、さまざまな面で興味深いできごとがあった。2月17日に行われたロシアのプーチン大統領によるハンガリー訪問である。

 この訪問をロシアの代表的な全国紙コメルサントは、「ロシアにかかわる諸問題で、欧州の一般的な立場とは全く異なる見解をとる」ハンガリー政府の「東に開かれた」政策が、「全速力で実現されていることの証し」と大々的に評価した。

会談でハンガリーのオルバン首相(右)と握手するロシアのプーチン大統領=ロシア大統領府ホームページから会談でハンガリーのオルバン首相(右)と握手するロシアのプーチン大統領=ロシア大統領府ホームページから
 同じ全国紙の「独立新聞」も「プーチンは欧州で同盟者を見つけた」との見出しで報じたように、ロシアのメディアは、ごく一部の非政府系のものをのぞいてハンガリー訪問を「大成功」ととらえる点でおおむね一致している。

 だが、クレムリンからの締めつけを気にしないですむ米欧メディアの見方は、当然ながらだいぶ違う。

 「2014年10月にプーチンの訪問を受けたセルビアは、国営ニュース・メディアが到着を祝い、軍事パレードが催され、セルビアとロシアのジェット機がアクロバット飛行をした。セルビアの最高の栄誉である共和国勲章も贈られた。そうした騒ぎは、今回まったくない」

 こう米ニューヨーク・タイムズ紙は書いている。

 プーチン氏は2015年2月、エジプトを訪問し、2013年に自身が国防相兼軍司令官として起こした軍事クーデターを通じて政権についたシーシ大統領と会談した。

 また14年11月には中国、12月にはインド、トルコ、ウズベキスタンを訪れた。そして、どこでも、判で押したように軍事技術やエネルギー分野での協力拡大を首脳と話し合っている。

 中国の習近平国家主席は、共産党一党独裁国家の最高指導者だ。インドのモディ首相は、グジャラート州首相時代からヒンドゥー至上主義的な強権体質が指摘されている。トルコのエルドアン大統領も、首相になった2003年から安定政権を率いるものの、イスラムの価値観押し付け、メディアや反対派への締め付けで強権色を強めている。ウズベキスタンのカリモフ大統領に至っては、1989年に旧ソ連ウズベク共和国の共産党第一書記に就任して以来、唯一無二の最高指導者として君臨し続けている。

 いずれ劣らぬ強権の指導者、マッチョ・タイプの政治家であり、要するにプーチン氏と似たもの同士なのだ。

 2014年2月にウクライナのクリミア半島を併合し、さらにウクライナ東部の武力紛争に関与したロシアに米国や欧州連合(EU)が制裁を課すなかで、プーチン氏は14年6月にオーストリアを訪れた後、多国間の国際会議などの場をのぞき、表立ってEU諸国への訪問ができない状態となっていた。

 勢い、訪問先は米国やEUの政策に対抗、または同調せず、強権や人権政策を米欧に批判されている国々が多くなる。こうした会談相手の顔ぶれは、その当然の帰結である。

 だが、これがロシア国民には寂しく思える。

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