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9条がなかったら、敗戦で日本人は何を学んだのか

表現の自由の意味、集団的自衛権による安全保障とは

WEBRONZA編集部

 社会学者の大澤真幸氏と憲法学者の木村草太氏による憲法の今日的問題を考えるトークイベントが先月、東京・池袋のリブロ本店で開かれた。二人による共著の『憲法の条件 戦後70年から考える』(NHK出版新書)の発売を記念したイベントで、表現の自由や9条と集団的自衛権の関係などについて、語り合った。以下の略歴は同書より。

大澤真幸(おおさわ・まさち)
1958年生まれ。社会学者。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。著書に『〈世界史〉の哲学』(講談社)、『不可能性の時代』(岩波新書)、『「正義」を考える』(NHK出版新書)、『思考術』(河出書房新社)など多数。

木村草太(きむら・そうた)
1980年生まれ。憲法学者。首都大学東京法学系准教授。東京大学法学部卒業。著書に『憲法の急所』(羽鳥書店)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)、「テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)など多数。

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大澤真幸氏(右)と木村草太氏

 2015年1月以降、フランスやデンマークで表現の自由をめぐる事件が続いた。「イスラム国による日本人人質2人の殺害事件もあった。自衛隊による邦人救出などについての議論が一部でなされ、安全保障法制をめぐる与党協議が始まったが、憲法について社会全体での大議論にはなっていない。なぜなのだろう。

 こうした現状について大澤氏は、「憲法に直接関わるような出来事が起きているのに、一生懸命考えていないのは、精神分析学的にいって無意識の防衛反応のような気がする。それについて考えた時に、決定的に自分の痛いところを突かれる時には、人間、無意識に避けるから」との見方を示した。

萎縮しやすい表現の自由

 表現の自由をめぐっては、木村氏がまず、「社会は表現の自由を保障した方が安定するか、禁止した法が安定するか」と問題を提起。その上でこう述べた。

 「(表現の自由は)長期的な視点で考えると、萎縮しやすい。良い表現と悪い表現を区別がすごく難しい。だから、表現の自由は保障しなければならないし、萎縮してはならない。ネット上などで表現されているもののほとんどは無意味なものだとしても、その9割を保護しないと1割のダイアモンドを守れない。このダイアモンドを守れないと私たちの社会はすごく貧しくなる」

 「フランスの事件、デンマークの事件、自由な社会から生じた犠牲である。そういうのをみた時に、自由を認めすぎてはいけないのではないかと思ってしまうけれど、そこで立ち止まって考えなければいけないというのが、あえて憲法で表現の自由を保障する意味なのだと思う」

 大澤氏は「私の言葉で言えば」として次のように続ける。

 「我々の社会は全員一致で何かをやるわけではない。政治的に決断をして、社会的に影響のある決定をすれば、必ず多くの人が失望する。失望する方が多い場合すらある。多数決でも半数近くが失望することがある。それなのに、多数をとって勝ったんだから、と言われても負けた方は納得できない。強いからって何でお前の言うことをきかなくてはいけないのだと。多数の暴力というのは、負けた方からみれば単純に腕力の暴力と同じなのです。

 だから、負けた人たちが、それでも納得する必要がある。負けたけれども、とりあえず結果をリスペクトして、場合によっては、次の機会にかけようとする。そのための必要条件として、人々に自分の意見を言ったり、自分の考えを出していくチャンスを与える必要がある。

 ところが、表現の自由がなかったら、一度も意見を表明できず、負けた人はまったく納得できない。この社会は多くのものについて納得のいかない結論を出しながら、それでもみんなでやっていかなくてはいけない。そのためには、最低限の必要条件として表現の自由は必要なのです」

 大澤氏はさらに、次のようにも付け加えた。

 「自由は、最大限認めた方がいいが、パラドックスがある。相手の自由を否定する自由の問題だ。例えばヘイトスピーチは、相手を威嚇して萎縮させている。(表現の自由とは)自己否定的に臨界点までいく。原理的な問題にかかわっている。すごく難しい」

憲法9条と集団的自衛権

 憲法9条と集団的自衛権の問題については、木村氏が、憲法意志という考え方を提示しながら、こう指摘した。

 「海外への武力行使の憲法意志がどこにあるのか。憲法というのは、こういうルールをつくろうという受け入れがあって成り立つ。武力行使について、9条、日本国憲法全体としてはできないというルールになっている。でも、それが日本人の憲法意志なのか。それは微妙だから、

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