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都市間外交は、日韓関係を打開するか?

動き出したソウル市と東京都のトップ交流

桜井 泉 朝日新聞国際発信部記者

 今年は日本と韓国が国交を正常化してから50年を迎える記念の年だ。しかし、両国関係は、旧日本軍の「慰安婦」問題などで悪化し、安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領の首脳会談のめどは立っていない。

 そんななか、首都ソウルの朴元淳(パク・ウォンスン)市長が2月はじめに来日した。朴市長は国家間の関係が困難なときの自治体交流の意義を訴えた一方で、第2次世界大戦での加害に向き合い、被害者に賠償を進めたドイツの例を挙げ、過去の反省と和解の大切さも強調した。

 戦後70年の今年8月、安倍晋三首相は歴史談話を予定している。アジアをはじめとする世界の人たちはその内容に注目している。

AJWフォーラム英語版論文

早稲田大での対話集会で語る朴元淳・ソウル市長(右)。左は李鍾元教授(同大提供)拡大早稲田大学での対話集会で語る朴元淳・ソウル市長(右)。左は李鍾元教授=提供・早稲田大学
 朴市長は、2月3日、都内の早稲田大学で学生、市民との対話集会に参加した。市長は、人権派弁護士で市民運動家として知られた。

 学生時代には、朴槿恵大統領の父である朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の軍事独裁に反対し、投獄されたこともある。2017年の大統領選挙の野党系の有力な候補と目されている。

 早稲田での講演のテーマは『「疎通」の市政と都市外交』。疎通という韓国語は、コミュニケーションといった意味だ。

 朴槿恵大統領は、意思疎通が下手(韓国語で「不通」という)だ、として一部から批判されている。朴市長は、そんなことも意識してか、市民運動家としての経験を生かし、市民との対話を重視するスタイルをアピールした。

 タイトルには、隣国・日本とのコミュニケーションの大切さも込められているのだろう。朴市長は、日本の市民運動家との交流も重ねてきており、「多くの点を学んだ」という。そして「大気汚染や高齢化、若者の失業など、韓日の自治体は、共通の課題に直面している。東京からはとくに災害への備えを学びたい」と語り、東京都と道路陥没対策の技術協力に関する合意を結んだ。

 市長はこれからの両国関係を担う若い人たちの相互理解の大切さも力説、「ぜひソウルを訪ねてほしい」と語った。

 東京とソウルは1988年以来、友好関係を結んでいる。しかし、石原慎太郎知事の時代(1999~2012)には韓国人をはじめとする外国人を敵視するかのような知事の発言もあり、交流は停滞していた。2014年に当選した舛添要一知事は、2020年東京オリンピック開催も念頭に7月にソウルを訪問、トップ交流が復活した。

 自治体国際化協会(東京)によると、韓国側と友好関係を結んでいる日本の自治体は156ある。国別では米、中に次いで3番目に多い。韓国では、独裁政権の時代が長く、民主化後の91年に選挙による地方自治制度が復活、自治体が観光や産業振興に独自策を打ち出そうと競っている。

 かつては日韓の政府間関係が悪化すると、主に韓国側から自治体交流や民間の文化交流まで一斉に中止した。しかし、最近は、日本側だけでなく韓国の関係者からも様々なレベルでの交流の大切さを訴える声をよく聞くようになった。

 2018年冬季オリンピック開催地、平昌のある江原道は鳥取県と友好関係を結んでいる。昨秋、私は来日した崔文洵(チェ・ムンスン)江原道知事を取材した。知事は「政府間の関係が難しいときこそ自治体外交の真価を発揮したい」と意欲的に語っていた。

 早稲田大学韓国学研究所所長の李鍾元(リー・ジョンウォン)教授は、「日韓はこの20年余りで社会、経済、文化などで交流が大いに進んだ。日韓が、互いに相手の国を一つのイメージだけで語ることはなくなった」という。一つのイメージしか浮かばない時代には、韓国ではタクシー運転手が日本人の乗車を拒否するなど、激しい反日感情がむき出しになった。

安倍首相の歴史談話に注目

 さて自治体や民間の交流が実を結び、日韓関係を打開する力になるかどうか。

 朴市長は講演の最後で、両国関係について「昨日をかえりみて、今日を直視し、明日へ進む」と述べた。戦後の日韓関係で最も良好だったころの象徴だと評価されているのが、1998年に金大中大統領が来日したときに小渕恵三首相と署名した「日韓パートナーシップ宣言」だ。

 そこには、「過去を直視」し、「未来志向的な関係を発展させる」とある。「未来志向」とは日本側の政治家が好んで使う言葉だが、歴史をおろそかにし、過去を忘れることではない。

 とくに中国や韓国などでは安倍首相が8月に出す歴史談話に注目が集まる。その内容によっては、日韓の政府間関係が悪化しているにもかかわらず、いま両国民をつないでいる様々な分野の交流に悪影響を及ぼさないとも限らない。朴市長の発言はそうしたことに釘をさしたとも受け取れる。安倍首相の熟慮が求められる。

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筆者

桜井 泉

桜井 泉(さくらい・いずみ) 朝日新聞国際発信部記者

1984年入社、91年にソウルで1年間暮らし言葉を学ぶ。97~99年、ハノイ支局長。韓国の政治外交、日韓関係や韓越関係、歴史問題、在日コリアン問題に関心。共著に『歴史は生きている』(朝日新聞出版)、『日本と朝鮮半島100年の明日』(彩流社)など。現在、朝日新聞AJWフォーラム担当部長。