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安倍総理、数字にご注意を!

誤解されかねないデータの使い方

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

安倍晋三総理

 大変ご無沙汰しております。

 総理が、自民党の幹事長代理・党改革本部長として、党の改革に精力的に取り組まれ、自民党の政党シンクタンクを創設する動きがあった時に、直接の担当者として、この活動の関係で週に何度も一緒にお仕事をさせていただきました。当時の党改革への前向きな姿勢は今でも鮮明に覚えています。その節は本当にお世話になりました。

 それ以後、総理として政権運営で大変ご苦労されると共に、無念の退陣などで非常に厳しくかつお辛い経験をされましたね。

 そして、2012年に自民党総裁に返り咲き、さらに12月の衆議院選挙で大勝し見事総理に復活されました。しかも、今回の政権運営では、前回の大変厳しい体験から学んだ教訓を存分に活かされ、見事な政権運営を行い、日本の社会や経済に久しぶりに明るい雰囲気と方向性を示されていると思います。素晴らしいことです。

 さらに、今日の政治状況や党内状況を考えると、有力な政治勢力はほぼ不在。安倍総理に代わる、次のリーダーや「ポスト安倍」を担う人材もおりません。そんな状況ですから、安倍総理には、日本におけるラストチャンスとして、是非とも頑張っていただき、日本を良き方向に向かわせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

「新経済サミット2015」参加者の表敬訪問を受けた安倍晋三首相。その左は三木谷浩史・新経済連盟代表理事=2015年4月6日、首相官邸拡大「新経済サミット2015」参加者の表敬訪問を受けた安倍晋三首相。その左は三木谷浩史・新経済連盟代表理事=2015年4月6日、首相官邸
 そのような立場にある安倍総理だからこそ、国民とは真摯にかつ直接に向かい合い、国民に対して、力強くしかも誠意のあるメッセージを発し続けていただきたいと考えています。

 そのメッセージが、国民や日本社会を鼓舞し、必ずやよい可能性が生まれてくると確信しています。

 そのように考えた時にやや気になることがございます。

 特にそれは、安倍総理のスピーチ等での発言におけるデータや数字の使い方です。

 そのことをここでは、よりわかりやすくするために、安倍総理の最近のスピーチを取り上げて、ご説明申し上げたいと思います。

 次にあげたスピーチは、安倍総理が、去る4月7日に、都内で開催された新経済サミット2015に出席された時に行われた挨拶の一部で、首相官邸HPから抜粋してきたものです。なお番号は、筆者が付したものです。

 「新経済サミット2015の開催を心からお喜び申し上げます。新経済サミットは、今年で3回目、『日本を、取り戻す。』こう申し上げて私の内閣も3回目の春を迎えています。
 この間、放ち続けた『三本の矢』によって、あの暗く淀んだ雰囲気は大きく変わりました。海外の投資家の見る目も変わってきています。日本への直接投資は、昨年、約3倍に増えました。外国企業から見たアジアの投資先の関心度調査においては、それまで全項目で中国が1位でありましたが、今回R&D拠点そして販売拠点で、日本が1位を獲得いたしました(1)。全世界で見ても、世界経済フォーラムの競争力調査で我が国は9位から6位に上昇しています(2)。
 私も、もちろんこれでは満足していません。目指すのは1位であります。改革とイノベーション、これこそが私の成長戦略の要であります。この新経済サミットには、特にチャレンジ精神あふれるイノベーションの担い手の方々が世界中から集まっておられます。だからこそ、昨年に続き国会の合間を縫って、参加させていただきました(以下、省略)」

 まず(1)をみてください。この数字は、経済産業省が、「平成25年度アジア拠点化立地推進調査等事業」で委託調査した「欧米アジアの外国企業の対日投資関心度調査報告書(平成26年3月)」(アクセンチュア株式会社への委託)から、引用されているものだと思います。

 同報告書には、次のような表(同報告書P2)が掲載されています。

■国別・拠点別立地競争力の推移(平成19年度、21年度、23年度、今年度)
(外国企業から見てビジネス拠点タイプ毎の投資先として最も魅力的なアジアの国・地域)

(1) ビジネス拠点タイプ毎に、アジアの21カ国・地域から投資先として最も魅力的な国・地域を1つ選択
(2) 百分率の上の数字は21カ国・地域における順位(なお、本調査は海外への投資意欲に関する調査であることから、アジア企業による自国・地域票は除いて集計)

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 上の2つの表をみてもわかりますように、確かに安倍総理が指摘するように、「外国企業から見たアジアの投資先の関心度調査においては、それまで全項目で中国が1位でありましたが、今回R&D拠点そして販売拠点で、日本が1位を獲得」しました。

 しかし、2つの表を比較しながら、よくよく数字をみると、順位が落ちた項目も多く、全体としてみると、日本への投資関心の状況が改善しているとは必ずしもいえないのです。単に中国の状況が悪くなったので、日本が若干改善したようにみえているだけのようにも読めます。

 それよりも、やはり他のアジアの国々の状況の方が良いと判断することもできるのです。もっと極端ないい方をすると、都合の良い数字だけを取り上げ、都合の悪い数字は伏せたといわれかねない、数字やデータの使い方をしていると思うのです。

 しかも、同報告書のP1の「1.調査概要」には、次のように書かれています。

  「R&D拠点の立地先としての日本の評価は中国と並び1位となるも、アジア地域における相対的な優位性は低下。地域統括拠点では4位から3位に上昇するも、シンガポール・香港に対する劣後が顕在化」

 「R&D拠点の立地先として日本が最も魅力的であるとする外国企業の回答は、前回調査に比して大きく落ち込んだ中国と並んで第1位となった。しかしながら、過去の調査結果が示すとおり、日本が最も魅力的であると回答した外国企業の割合は低下の傾向にある」

 「地域統括拠点については前回調査の4位から3位に上昇した。しかしながら、日本が最も魅力的であるとする外国企業の割合をみると、今回調査で1位のシンガポール(前回調査2位)と同2位の香港(同3位))に対し、前回調査においてはその差はわずかであったが、今回調査を見るとその差は拡大し、明らかに水をあけられた状況となった」

 このように、R&Dだけみれば、日本への関心状況は確かに高まっていますが、全体としてみると、アジアの中では、逆に悪化しているのです。つまり、同報告書によれば、安倍総理が主張しているように、日本への投資や経済状況が良くなっているとは決していえないのです。

 このように考えると、安倍総理は、間違ってはいないものの、非常にミスリーディングで、誤解を与えかねないメッセージを出しているといわれかねないのです。

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筆者

鈴木崇弘

鈴木崇弘(すずき・たかひろ) 城西国際大学客員教授(政治学)

城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科客員教授。1954年生まれ。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センターやハワイ大学大学院等に留学。東京財団の設立に関わり、同財団研究事業部長、大阪大学特任教授、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり、同機関理事・事務局長などを経て現職。中央大学大学院公共政策研究科客員教授。著書に『日本に「民主主義」を起業する――自伝的シンクタンク論』『シチズン・リテラシー』『僕らの社会のつくり方――10代から見る憲法』など。

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