同時多発テロ後の「愛国社会」で、たった一人の闘い
2015年05月07日
2001年9月11日。朝日新聞のロサンゼルス支局長としてアメリカに赴任してわずか2週間後に、ニューヨークでテロが起きた。
ロサンゼルスの中心部はこの日、ゴーストタウンになった。東海岸の中心地ニューヨークで起きたテロに続いて、西海岸の中心地ロサンゼルスでも同じようなテロが起きるというデマが広がったためだ。市で最も高いビルに飛行機が突っ込むという、もっともらしい内容だ。
ロサンゼルスで最高層のビルは金融街にある。朝日新聞ロサンゼルス支局が入ったビルのすぐ近くだ。
ビルの9階にある支局の窓から市街を見下ろすと、シーンと静まり返っている。いつもなら東京の銀座のようなにぎわいを見せる金融街が平日の火曜日にもかかわらず、人一人、車一台、通らない。不気味な光景だ。
テロから3日目に当時のブッシュ大統領は「戦争する権限を大統領に一任する法案」を議会に出した。テロを起こした相手に直ちに報復するため、という理由だ。
だが、これは民主主義を破壊する法律だ。一人の権限で戦争が始まるなら、世界は戦争だらけになる。
それを防ぐため、大統領が戦争をしようと決意しても議会の承認がなければ戦争に入れないのが民主主義社会の仕組みだ。
愛国心で狂気のようになった米国議会の上院は満場一致で法案に賛成した。ところが、下院ではたった一人だけ反対した議員がいた。野党民主党の黒人の女性議員、カリフォルニア州選出のバーバラ・リーさんだ。
私は驚いた。こんな時期に反対すれば国民の怒りを買うのは明らかだ。非国民扱いされかねない。
事実、彼女は猛烈にたたかれた。「直ちに議員をやめろ」「アメリカ人の国籍を棄てて国境から出て行け」と罵倒された。もう二度と選挙で当選できない、いや立候補すら無理だと言われた。
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