メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

憲法改正に「お試し」はあり得ない(上)

「慣れる」「味わう」「植えつける」……自民党の憲法感覚を問う

水島朝穂 早稲田大学法学学術院教授

憲法改正は「慣れる」「味わう」「植えつける」ものなのか

 「憲法96条先行改正」が頓挫し、2013年参議院選挙で「ねじれ解消」を達成した後、安倍晋三首相は96条を前面に出すことを控える「96条潜行改正」、すなわち「解釈改憲」に重点を置くようになる。

 特定秘密保護法の制定(2013年12月)、武器輸出三原則の撤廃(2014年4月)、そして集団的自衛権行使容認の閣議決定(同年7月)と、それぞれに一内閣を必要とするほどの大転換が短期間に、一気に行われていった。

 そして、その「7.1閣議決定」を具体化すべく、5月26日から国会で安全保障法制の審議が始まる(この問題について詳しくは、拙著『ライブ講義 徹底分析! 集団的自衛権』岩波書店、2015年参照)。

傍聴人も多く集まって開かれた衆院の憲法審査会=7日20150507拡大傍聴人も多く集まった衆院の憲法審査会=2015年5月7日
 こうした「解釈改憲」を進める一方、2015年5月に入り、衆議院憲法審査会で本格的な議論が始まった。「解釈改憲」と「明文改憲」の二兎を追う戦略なのか。

 それでも、衆参両院の憲法審査会では、改憲についての対応は微妙に異なる。

 3月4日の参議院憲法審査会には、筆者も参考人として招致されたが、「憲法とは何か」というごく一般的なテーマで、予定時間を20分もオーバーして行われた(詳しくは、直言「参議院で『憲法とは何か』を語る」2015年3月16日参照)。

 これに対して、衆院の憲法審査会の方では「合意を得やすい」条文の選定に入っている。

 自民党憲法改正推進本部長の船田元氏は、「国民が憲法改正に慣れることが必要だ」と述べつつ、同時に、「憲法改正の最初の発議を2年以内に行い、2回目の発議で9条の改正を実現したいと意欲を示した」という(「テレビ朝日」3月26日8時のニュース)。「2年以内に9条改正」と、この時点ではかなり前のめりだった。

 5月に入り、9条改正をすぐに押し出すのではなく、まずは「合意を得やすい」条文を選定して改憲に着手するという「改憲2段構え」(『朝日新聞』5月8日付一面トップ)の戦略を打ち出した。具体的な条文としては、(1)緊急事態条項、(2)環境権、(3)財政規律条項の3つが挙げられている。

 この動きが出てきたとき、それを「お試し改憲」と最初に皮肉ったのは、『朝日新聞』3月27日付夕刊の「素粒子」だったように思う。「『八紘一宇』も『我が軍』にしても。当の国会の反応の鈍さよ。このぶんではいずれお試し改憲も『まいっか』」。

 その後、「お試し改憲」という言葉は、メディアで広く普及していく。

 本家の「素粒子」は5月8日付夕刊で「通りゃんせ」の歌にひっかけて、再度これに触れた。「一度はよいよい、二度目は怖い。『お試し改憲』の通りゃんせ。戦後70年のお祝いに9条の改正目指して参ります」と。

 かつて『論座』(朝日新聞社)2004年2月号に、当時自民党幹事長だった安倍晋三氏の「9条改憲論の研究」が掲載された。「第三の憲法を白紙からつくりたい」というタイトルのインタビュー構成で、私は編集部からこれを批判する原稿を依頼された。そこで、翌月号に「理念なき改憲論より高次の現実主義を――「9条改憲論の研究」私はこう読んだ」を書いた(『論座』〔朝日新聞社〕2004年3月号、184-191頁)

荒れた言葉

 あれから11年。安倍氏は第二次安倍内閣の首相であり、憲法改正のリアリティは当時の比ではない。 ・・・ログインして読む
(残り:約985文字/本文:約2377文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

水島朝穂

水島朝穂(みずしま・あさほ) 早稲田大学法学学術院教授

早稲田大学法学学術院(法学部、大学院法学研究科)教授。1953年生まれ。専門は憲法学、法政策論。法学博士。『ライブ講義 徹底分析! 集団的自衛権』(岩波書店)、『はじめての憲法教室――立憲主義の基本から考える』(集英社新書)、『伊藤真が問う日本国憲法の真意』(共著、日本評論社)など単書、編著、共著多数。