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[4]「教養」とは何か――「論理」を知る

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

課題図書
「メインの3冊」
 池上彰『おとなの教養――私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(NHK出版新書)
 澤田昭夫『論文の書き方』(講談社学術文庫)
 芳沢光雄『論理的に考え、書く力』(光文社新書)

「サブの3冊」
 池上彰『情報を200%活かす 池上彰のニュースの学校』(朝日新書)
 村上陽一郎『ペスト大流行―― ヨーロッパ中世の崩壊』(岩波新書)
 福沢諭吉『現代語訳 学問のすすめ』斎藤孝・訳(ちくま新書)

 芳沢光雄『論理的に考え、書く力』(光文社新書)を読んでみましょう。

 「人や情報が国境を越えて活発に行き来する現代は、政治、経済、環境など、あらゆる場面で解決すべきグローバルな課題が山積している。こうした課題に取り組むには、論理的に考え、文化の異なる他者が納得できるように、自らの立場を筋道を立てて説明する力がきわめて重要になる。
 大国と小国、あるいは大企業と小企業などが共通の土台で理解を深めようとするとき、最も客観的な「数字」を抜きにして語ることはできない。特に、「国内総生産(GDP)に対する債務残高の割合」「社員一人当たりの売り上げ」「国際基準値と比較したPM2・5濃度」といったように、それぞれの大きさに合わせて考える「比と割合」の概念は必須である。
 ところが最近、特に算数・数学の「非言語系」と呼ばれる分野で、大学生の間で様々な「奇妙な現象」が起きている」(3ページ)

 「論理」には二つあります。一つは非言語系の論理です。例えば数学。これは論理学、論理記号を使っていくんですが、非言語系の論理ですから、世界を読み解くときに、「固有名」を説明できなくなってしまうという難しさがあります。この固有名の問題は実はものすごく重要になってきます。

 「それはたとえば、高校の数学IIで学ぶ多項式の微分・積分の計算はできる者が、算数で学んだはずの比と割合の概念をよく分かっておらず、就職活動の適性検査の問題を誤って答えてしまうような現象だ。より具体的には、食塩水の濃度の問題などで、「~に対する……の割合」という表現を、「……の~に対する割合」という表現に変えると、混乱してしまう者が数多くいる。
 その背景には、国語の文章理解力が弱くなったことのほか、算数・数学の問題の答えを「導く」のではなく、暗記科目と同じように「当てる」ものだと勘違いしていることがある」(3~4ページ)

芳沢光雄芳沢光雄氏
 この芳沢先生はユニークな本をたくさん書いていて、極めて優秀な数学者ですが、大学教育は大変なことになると警鐘を鳴らしています。

 『新版 分数ができない大学生』(岡部恒治、戸瀬信之、西村和雄編、ちくま文庫)でも、「2分の1+3分の1=5分の2」と答える大学生がどうして2割近くもいるのかと書いていますが、最近の状況はもっとひどくなっているでしょうね。

 マークシート式についても、面白い実証研究が紹介されています。

 「大学入試センター試験や各大学の一般入学試験は、試験時間に余裕が少ないのが普通である。特にマークシート式問題というのは、ゆっくりと考える暇を与えない。念のために付け加えておくと、マークシート式問題は機械にかけて採点される。すると、受験生の心理としては、テレビのクイズ番組で「ピンポン」とブザーを鳴らす早押しテクニックのように、「素早く答えを当てればよい」という思いが働くのは自然なことだろう。
 それでも時間が足りなくなり、残り1分となったときも諦めてはいけない。回答群が5~10個あれば、先頭から「3」番目に全部マークをするとよい。これは過去に行われた様々なジャンルのマークシート式問題の正答分布からいえることである。作問者側の心理として、最初と2番目に正解を置くのは意外と勇気がいるものであり、逆に、正解を最後のほうに置くことも躊躇する傾向がある。したがって、正解は「3」番目に落ち着くことが多い」(66~67ページ)

 芳沢さんは、問題を作る側の心理を知り尽くしていますが、なおかつ統計をとってみると、明らかに期待値の「3」が大きくなっているという話は面白いですね。学力を判定するのに、いかにマークシート式に問題があるか。だから、やっぱり書かせないといけないわけです。

「問題の場」と「問題」の違い

 次に、澤田昭夫『論文の書き方』(講談社学術文庫)に移ります。これは論理について知るための古典中の古典ともいえる良書ですけれども、

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