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なぜ韓国で? MERS感染拡大の背景(上)

かつてない、不思議な風景

伊東順子 フリーライター・翻訳業

1人も発病していないのに、予防休校

 2014年のセウォル号事故に続き、韓国の市民生活を直撃したマーズ(MERS)問題。学校は休校、行事は延期。14年に修学旅行や遠足をキャンセルした学校は、今年もまた同じような状況になっている。

 「子供たちが可愛そう……」――しかし、未知の病気への恐怖が優先した。ただし、ほとんどは「予防的な休校」であり、実際に学校内で感染が広まった5年前の新型インフルエンザとは随分様相が違った。

 「誰一人発病してない」状態での長期の休校、「見えない敵との戦い」は子供たちにも親にも想像以上のストレスとなった。

 もっとも、一部特定地域をのぞき、休校は父兄や学校の自主判断であり、英米系インターナショナルスクールや日本人学校などでは通常通りに授業が行われていた。

 「韓国人の父兄の心配が尋常ではない。まだ、なにもない段階で休校なんて……」。

 現地の公立小学校に子供を通わせる日本人の母親は驚いた。

 こうした韓国社会の初期のパニックの原因は、政府の情報公開がきちんとされなかったことにある。それが14年のセウォル号事故の記憶と重なり、政府やメディアへの不信につながった。SNSを通して流れてくる「断片的な情報」を、ある人は「真実」といい、ある人は「デマ」といった。

 一時期のパニック状況は、政府の情報公開とともに落ち着いていった。メディアにはまだマスクをしている人がよく登場しているが、多くは切り取られた映像だったし、ソウル市内に限れば1割ほどかなと思う。さらに、近づいてみると、その多くは「外国人観光客」であることがわかる。

 今回は感染者が香港・中国を旅行していたこともあり、初期の段階から中華圏での警戒心は大きかった。韓国旅行のキャンセルも6月に入ってからだけで8万人を超えたと発表されたが、その多くは中国・香港・台湾からの観光客が占めている。

 韓国の人々がマスクをしていない(はずした)のは、マーズの感染経路がほぼ明らかになったことが大きい。

 現状は「院内感染」であり、感染したのも「病院スタッフ」「同室患者」「見舞い客」など非常に近くにいた人々。うち重篤化したり亡くなったのは闘病中の高齢者などが多く、当初心配されたウィルスの「変異」が原因ではないようだ(政府保健当局によっても、ウィルス変異ではないことが発表された)。

 また6月8日に韓国入りしたWHO(世界保健機構)は、学校の休校措置に対しても、「感染とは関係が無い」として再開を勧告している。

 その後、釜山の日本人学校が6月15日になり3日間の休校となったが、これは近隣病院での患者発生を受けての緊急措置であり、初期のパニック休校とは事情を異にする。

ガラガラの病院

 感染経路がおおむね明らかになり、それに対する具体的な予防措置が施される中、一時のようなヒステリックな状況は収まった。

 ところが、社会には別の不安が広がっている。

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筆者

伊東順子

伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業

愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。

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