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日韓国交正常化50周年に必要とされる覚悟(下)

容易な批判ではなく、相手を知る努力を

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

手法上の問題

 現在の嫌韓の雰囲気を助長する番組で多く見られる特徴として、古いタイプのプロパガンダの手法を挙げることができる。

 著名な社会心理学者のエリオット・アロンソンはアンソニー・プラトカニスとの共著『プロパガンダ――広告・政治宣伝のからくりを見抜く』(日本語訳:社会行動研究会、誠信書房)の冒頭に「執筆を思い立ったわけ」として、あるエピソードを紹介している。少々長くなるが引用しておきたい。

 (アロンソンは:筆者注)一九三二年生まれで、第二次世界大戦の頃に少年期を過ごした。「当時、学校やメディアで見聞きすることは、何でもかんでも熱心に信じていた。たとえば、ドイツ人はみな悪魔であり、日本人はみな卑劣で油断できない。それに対してアメリカ人はみな品格があり、正直でフェアな精神の持ち主であり、信用できる。そう考えていたのである。十一歳にもなれば、一九四〇年代の初頭の戦争映画のなかに現れた人種的な風刺を真面目に受け取るのも当然だったかもしれない。しかし、当時は、本書を捧げた私の両親も含め、ほとんどの大人たちも、戦争映画に含まれた基本的メッセージを信じることを望み、そして実際に子どものようにメディアを盲信したのである。彼らは、ルーズベルト大統領のあの有名な炉辺談話の一言一言に耳を傾け、国の政策の背後にある崇高な動機に疑念をはさむことなど夢にも思わなかった。【以下、略。日本語版ⅰ頁】

 意識的なのか、無意識的なのかは判別できないが、先に挙げた番組は穏やかで明快な口調で進行される分、こうした構造が一層透けて見えた。

 私は相手国にだけ問題があるとの姿勢を変えず、自らを省みることなしに将来への展望を見い出せていない日韓両国の政権担当者の姿勢に対して、友好を望む者として度々失望を感じてきた。

 しかし、関係者や市民の間で日韓双方に関係悪化の責任があると捉え、関係改善に向けた期待が高まる最中、その番組を視聴した際には「なぜこのような放送を、あえて国交正常化50周年を迎える6月という時期に行うのか?」との絶望に似た思いを抱かざるを得なかったのである。

 もちろん、私は自国政府の政策を支持し、後押しする姿勢を否定するわけではないし、ネット上にある言説であっても貴重な指摘は散見されていると感じる。また、本稿で挙げたものばかりでなく、多くの関係者も認めるように韓国が抱える問題も存在しており、関係改善のためには、その解決が求められている。

 しかしながら、そうした指摘はあくまで冷静な議論や検証によって行われるべきであり、先鋭化した世論を背景とする一方的な批判によってしまっては、相手を一層頑なにする結果しかもたらさない。

日本と韓国、異なる視角の起点

 では、ここで日韓関係を悪化させる核となる問題の所在を明らかにしつつ、前述の日本に存在する課題との関連を踏まえ、両国の望ましい方向性を提起してみたい。

 日韓関係をめぐる韓国の最大の課題は「現在の日本の姿と、多くの韓国人が捉えている日本の印象との間の乖離」だと私は考えている。

 先の世論調査では、韓国で日本の社会・政治体制のあり方を「軍国主義」と捉える人が56.9%に上り、それに「覇権主義」の34.3%が続き、「平和主義」と捉えた人は4.2%に過ぎなかった。

 しかしながら、6月現在、安全保障法制の議論の中で安倍政権に対する支持率が低下していること、あるいは憲法9条に向き合う賛成派・反対派それぞれの姿勢を見ても、戦後日本が平和主義をとってきたことはいうまでもなく、韓国に誤解が生じていることは確かである。

 ここで問題なのは、韓国が捉えている日本の姿は戦前の植民地期における延長に位置しているという点である。そこを基準にして現在の日本の行動を見ると、本来は大概合致しないものばかりでありながら、少しでもそれに合致するものがあれば、軍国主義や右傾化と見なしてしまう傾向が韓国にはある。

 もちろん、多くの日本人も懸念しているように、そうした面が現在の日本に一定程度は存在するものの、日本が軍国主義の国かというと「それは違う」とかぶりを振る人の方が大多数であろう。

 そして、日本は自らが戦後継続してきた平和主義的姿勢に確信を持っているため、記憶も薄れがちな70年前の自国の過去の姿に対して、現代を基軸として切り離されたものと捉えるようになってきている。

 そのため、脱皮したと考える過去の過ちに対して「それは忘れて、未来志向に」という姿勢がとられやすくなる。ここに両国の日本の歴史を見る起点の違いが見て取れる。

 では、ここで日本の自己評価の一端を見ておきたい。 ・・・ログインして読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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