伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業
愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国カルチャー──隣人の素顔と現在』(集英社新書)、『韓国 現地からの報告──セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)など、訳書に『搾取都市、ソウル──韓国最底辺住宅街の人びと』(イ・ヘミ著、筑摩書房)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「韓国人の国民性」で語る危うさ
日本でもマーズ(MERS)関連報道が本格化してきたようだ。韓国からの入国者に敏感になるのは理解はできるが、「韓国人のモラルが」「国民性が」という言い方は少々気になる。前回書いたように、このWEBRONZAにも、次のようなタイトルの記事があった。
「韓国MERS危機はパンデミック寸前に――共同体の安全を考えぬ国民性が響く」
「国民性」ですか……。
その前にまずは現在の状況をざっとみておきたい。
6月22日現在で、感染が確定された人は172名、うち死亡は27名である。また、感染者の近くにいたという理由で「隔離対象」となっている人は3833名、一方で結局のところ感染は確認されず、隔離解除となった人が9331名いる。あと、感染確定者だったが、回復して退院した人が50名いる。
中東から帰国した第1号の患者が平澤聖母病院に入院したのが5月15日、マーズであることが確認されたのは5月20日。その日から約1カ月の間で172名が発症した。
この数字をどうみるか。
毎年、国内だけで数十万人単位での発症があるインフルエンザと比較する人もいる。
ちなみに2009年に流行した新型インフルエンザの場合、日本では第1号患者の確認から1カ月間の発症例は約500人と報告されていた。
また死亡は27名ということで死亡率は16%ほど、一部で言われる死亡率は約40%とも言われたが、それに比べると生存率は高くなっている。
さらに10年ほど前のサーズや、2014年から大流行となっているエボラ出血熱のように、健康なビジネスマンや治療にあたった医師までが死亡するような事例は今のところ出ていない。
そこで『ニューズウィーク』の最新版などは、「MERSに過剰反応? 韓国と世界のギャップ」(6月23日号)というタイトルのコラムも掲載している。コラム内にも引用されているが、海外の専門家は今回の事態に対し、韓国政府・国民に冷静な対応を求める意見が多いようだ。
WHO(世界保健機構)が「学校の休校措置は無意味」と、解除を勧告したことは前回書いたが、6月18日の報告書でも「国際的緊急事態に該当しない」「韓国に対する渡航や通商を制限する措置や入国時の検査は今のところ必要ない」という見解を示している。
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