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イラクの復興はサマワから?

 2004年1月から、イラク南部のムサンナ州サマワに陸上自衛隊が駐留を開始した。人口4万、周辺地区を合わせると20万の地方都市だ。

 私は自衛隊が来ることが決まってからサマワに取材拠点をつくることを考えた。取材態勢として、外報部と社会部と写真部の3人の日本人記者が来ることを考え、通訳と運転手を4人ずつ雇った。

 最初はサマワにあるホテルの部屋を臨時の取材拠点にしていたが、後に民家を借り、料理担当の男性やお掃除担当の女性、さらに部族出身の護衛を24時間態勢で雇うなどして、本格的な取材拠点にした。

 私は自衛隊の先発隊が来る前から、カイロとバグダッド、サマワの3カ所に2週間ずつ滞在するような生活をしていた。

 2004年2月8日前後の3週間はサマワに滞在した。最初はサマワがどこにあるかも知らなかったので、サマワという町と土地柄、人々について理解するために、州知事や議会議長、政治組織の指導者たち、有力宗教者たち、有力部族長たちや商人組合の代表などほとんどの有力者を訪ねて、インタビューをした。

 すべてのインタビューをアラビア語でしていたので、そのうち、アラビア語を話す日本人のジャーナリストがいるということを聞きつけて、私の助手のところに「私も日本の新聞に言いたいことがある」と政党の指導者から招待されたこともあった。

 地元の人々と、毎日インタビューをして、サマワについてだんだんわかってきた。

 もちろん復興支援事業でやってくる自衛隊についてどのような期待をもっているかも必ず質問するのだが、自衛隊というよりも日本の援助に対する地元の思いはほとんど現実離れしていた。誰に会っても、「日本が支援に来るのなら、イラクの復興はサマワから始まる」と本気で考えていた。

自衛隊の事業とサマワの要望の距離

 だが、日本政府が発表し、自衛隊が予定していた飲料水の供給や医療支援など緊急支援事業と、サマワが求めているものは全く食い違っていた。

 例えば自衛隊が主な事業としていた給水は、地元の川から自衛隊の宿営地に引き、濾過した水を給水車で飲料水のない村に運ぶというものだったが、地元の人々が求めていたのはインフラとしての水道網の整備だった。

 1月末に州知事のムハンマド・ハッサーニと会見した。知事は会合などで、「われわれは日本を迎えたことで他の人々から羨望の目を向けられることになろう」と州の民衆に語っていた。

 知事は会見で、自衛隊がサマワに到着して以来、州側が日本に実施を求めている民生関係の事業の優先順位について話を詰めているとしつつ、「我々が自衛隊に期待する事業のなかで最優先なのは失業問題の解決である。プロジェクトとしては、上下水道事業、健康医療事業、学校建設、道路舗装などである」と語った。

 その上で、知事は「自衛隊を守ることはサマワ市民の義務だ」と語り、州内の各種会合でも「人々の義務」として強調していることを明らかにした。知事の話と自衛隊の任務の間には、隔絶した距離があった。

 サマワへの陸上自衛隊派遣の基礎となるイラク特別措置法では、二つの活動の柱があった。それは人道復興支援と安全確保支援であり、人道復興支援では、医療、生活関連物資の配布、施設の復旧や整備などが主な業務とされた。

 しかし、サマワ市及びムサンナ州のイラク戦争で受けた被害は大きくなかった。ここで抱えている問題は、イスラム教シーア派地域で旧政権時代に冷遇されたことにより、社会基盤の多くが70年代、80年代前半のもので、公共施設の多くが老朽化しているということだった。戦後復興の緊急支援を第一の任務として派遣された自衛隊ができることと、住民の要望の食い違いは大きかった。

 私は知事に「何か、緊急支援の対象はないのか」と質問すると、知事は「緊急? ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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