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安保法案で「良識」が問われる参議院

主権者は「クーデター」を失敗させられるか?

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

クーデターを決行した「違憲内閣」

 「7・15事件」のプロセスを考えてみよう。

 2014年夏の7月1日における集団的自衛権行使容認の閣議決定は、石川健二教授(東京大学)らの言うように「法的クーデター」であり「憲法クーデター」である。

 ただ、この法的クーデターに基づいて国家権力を行使するためには、立法行為が必要なので、政権は衆議院で強行採決を行い、ついに7・15事件を決行した。これは、議会での採決という点で政治的行為だから、「政治的クーデター」であり、憲政の伝統を覆すという点で「憲政クーデター」である。

 衆議院の審議やそれによる国民の支持の低下によって、この法案の成立を断念すれば、安倍内閣は、民主主義的な議論によって政治的クーデターの実行を思いとどまったことになる。けれども、強行採決を実行することによって、内閣とそれに賛成した与党議員は憲法第99条の「国務大臣、国会議員」の「憲法尊重擁護義務」に違反した。

 だから、これらの人々は国政に携わる倫理的資格を失い、内閣は「違憲内閣」となったと言わざるを得ない。

 罰則は定められていないものの、論理的には、もしこの内閣の継続中に最高裁で違憲判決が下されれば、憲法尊重擁護義務違反により、内閣総辞職が必要になる。それだけではなく、賛成した国会議員もその資格を疑われることになり、厳しくその責任が問われるようになれば、賛成した議員もまた辞職を要求されることになろう。

 実際には、議会の審議で熟議してより良い法案を実現することはもともと政権の念頭になかった。審議した外見を作って、クーデターを実現することだけが目標なのである。

 しかし、今の憲法においては二院制だから、参議院でも審議し議決する必要がある。参議院で議決するにせよ、それができずに衆議院で再議決するにせよ、法律を成立させることによって、この憲政クーデターは完結するのである。

執行猶予期間と「良識の府」の存在理由

 そこで、参議院の審議期間、あるいは「60日ルール」でいう60日は、このクーデターを最終的に完成させるまでのモラトリウム(執行猶予)期間と言えるだろう。

 参議院はもともと「良識の府」として作られており、衆議院以上に質の高い審議をすることが期待されている。7月24日に参議院本会議で10増10減の参院選挙制度改正案が可決されたが、これは「1票の格差」の是正を最低限の合区でしのいだものに過ぎない。残念ながら、参議院に関するこのような高い理想が省みられることはなかったのである。

 しかし、衆議院の強行採決の後に参議院審議が控えているということは、このクーデターの成否に対して大きな意味があるかもしれない。

 参議院は衆議院のカーボンコピーと言われたりして、その存在意義が疑われてきたが、ここでしっかりと審議してクーデターを食い止めることができれば、参議院は憲政の擁護という点で歴史的に大きな役割を果たすことになる。

 そもそも、二院制の意義とは、衆議院に相当する下院の「多数の専制」に対して、参議院に相当する上院の良識が歯止めをかける可能性にもあるのである。

与党議員も強行採決に反対し、政党は党議拘束をはずすべし

 現実的にも現在は衆議院よりも参議院で与野党の議席差が大きくないので、熟議ができる可能性は少なくないだろう。安保法案を審議する特別委員会が45人になって、少数派も含め会派の全てが委員を出すことになったのは、良い兆候である。

 また、来夏には参議院選挙がある

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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