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「法的安定性」の破壊こそが「憲法クーデター」だ

「決定的違憲」の安保法制

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

法治国家を崩壊させる不正発言

 礒崎陽輔首相補佐官の「法的安定性」無関係発言が大問題になり、同氏が参院特別委員会に参考人として呼ばれ、発言を撤回し陳謝したが、辞任は否定した(8月3日)。翌日、安倍晋三首相は更迭しないことを明言したが、その任命責任は免れない。

安保関連法案の参院特別委で参考人として呼ばれ、答弁のたびに深々と一礼する礒崎陽輔首相補佐官(中央)=3日拡大安保関連法案の参院特別委で、答弁のたびに深々と一礼する礒崎陽輔首相補佐官=2015年8月3日
 礒崎氏は、「法的安定性は関係ない。我が国を守るために必要な措置であるかどうかを基準にしなければならない。我が国を守るために必要であることを日本国憲法がダメだと言うことはありえない」「憲法解釈を変えるのはおかしい」と(言われるが)、政府の解釈だから、時代が変わったら必要に応じて変わる」(大分市での講演、7月26日)と述べた。

 この発言は、「法的安定性」無関係論と、憲法解釈変遷論と要約することができるだろう。

 日本を守るためなら「法的安定性」は無関係だというのなら、国防のためなら権力が法律をどんどん変えていいということになってしまう。これは、憲法を蔑(ないがし)ろにしているというだけでなく、さらに法治国家の大原則にも反し、それを崩壊させかねない発言である。

 これでは、人治国家のレベルに戻ってしまう。これは、正義論のいかなる観点からみても、不正な発言としか言いようがない。憲法を重視する正義論はもとより、安倍政権の発想にもっとも近い正義論から見ても(「いかなる正義にも反する安保法案の強行採決(上)――3つの正義論から考える」WEBRONZA、2015年7月13日)、仮に日本の防衛のために安保法制が望ましいとしても、法治を動揺させるマイナスの方がはるかに大きいからである。

 この発言は、礒崎氏個人の問題というわけではなく、安倍内閣全体の問題でもある。

 安倍首相自身が「憲法は国家権力を縛るものだという考え方は絶対王権時代の主流的な考え方」と近代立憲主義を無視した考えを述べ(2014年2月3日)、中谷元防衛相も「現在の憲法をいかにこの法案に適応させていけばいいのかという議論を踏まえまして閣議決定を行った」(2015年6月5日)と述べたことがあるからである。

 安倍首相が礒崎氏を辞任させないのは、実際には自分の考え方と似ているからだろう。

「憲法学者」の安保法案合憲論との類似性

 実は、今回の発言は安保法制を合憲とする「憲法学者」の発想とも類似している。 ・・・ログインして読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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