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歴史認識のギャップをどう縮めるか(上)

「慰安婦」問題と感情的ナショナリズム

ジョルダン・サンド ジョージタウン大学歴史学科教授

(この論考は2015年7月23日に行われた立憲フォーラムでの発表に基づく)

 今年の5月5日に、私を含めて欧米にいる187人の日本研究者が声明を出した。

 この声明はこの半年ほどで発表された知識人による複数の声明のひとつであった。これらの声明はいずれもいわゆる「歴史問題」に関するもので、特に従軍「慰安婦」問題に焦点を当てているのが特徴だった。

 私たちの声明は、2014年10月15日に出された日本の歴史学研究会の声明に触発され、その声明に海外から賛同する意味で出したものだ。

声明を発表する歴史学団体の代表者ら=東京都千代田区 20150525拡大声明を発表する歴史学16団体の代表者たち=2015年5月25日、東京都千代田区
 その後、5月末には日本の研究団体16団体によるおなじ趣旨の声明も出されている。

 この16団体声明は日本の歴史学団体をほぼ網羅しているので、慰安婦問題について、大多数の歴史研究者は同様の意見を持っていると言ってよいだろう。

 また、私たち187人の声明が出た後、ヨーロッパを中心に賛同する日本研究者の署名も約1週間のうちにさらに300近く集まった。署名集めを続けていれば世界中から1千人も2千人もの日本研究者の署名が集まったにちがいない。

 私たちの声明は他と違って東アジアの外からの発言だったので、その性質上おのずから口調が異なっていた。このように直接当事者ではない立場にいる者として政治問題に介入するのは異例のことで、それを意識して、私たちは当事者である東アジア諸国の人々になるべく広く受け入れられ、そして建設的な発言になるように務めた。

 声明を作成するにあたっては、歴史認識に関して二極化してしまった言論状況に対して、外部からどうやって高飛車な物言いに聞こえない表現で常識を取り戻すように促すか、慎重に考えなければならなかった。また、署名者のなかにもさまざまな政治的立場の人もいた。

日本研究者の危惧

 この声明の作成に私自身が関わった理由は、日本と日本以外の国々の間にとりわけ「慰安婦」問題について認識のギャップが大きく広がっていることを懸念していたからだ。人生の半分ほどを日本とアメリカ合衆国のあいだで生きてきた者として、日本の新しい風潮を異様に感じてもいた。

 このギャップと私なりの解決法については以下3点でまとめる。日本歴史が専門であるが、「慰安婦」問題の研究者ではないので、専門家も非専門家も共有できる平坦な言葉と常識的な捉え方を求めたい。

 まずはなぜこの歴史認識のギャップが生じているかということだ。2番目に、もし認識のギャップがあるなら、「正しい歴史認識」とはなにか。そして3番目に、どうやってそのギャップを縮めるかということである。

 日本の政界やメディアには、「慰安婦」問題について日本の外の世界と相当違う認識を持っている人が多いようだ。これは一部の学者にも支えられている。

 このギャップを考えるときにまず、日本が正しく世界が間違っている、という可能性を考えなければならない。 ・・・ログインして読む
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筆者

ジョルダン・サンド

ジョルダン・サンド(Jordan Sand) ジョージタウン大学歴史学科教授

東京大学修士(建築史学)、コロンビア大学博士(歴史学)。近代日本文化史専攻。特に都市、建築、物質文化、食文化などに注目して、日本の近代化を研究。単著にHouse And Home in Modern Japan: Architecture, Domestic Space, And Bourgeois Culture, 1880-1930〔『近代日本における家と家庭——建築、家内空間、ブルジョア文化:1880〜1930 年』〕 (Harvard University Press, 2005)、Tokyo Vernacular: Common Spaces, Local Histories, Found Objects 〔『土着の東京――共同空間、まちの歴史、ものの発見』〕(University of California Press, 2013)。日本語の単著、『帝国日本の生活空間』が岩波書店から10月に刊行予定。