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主体性なき「精神形態」を示した安倍談話

より悪しき談話を回避させた人々の力

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

主体なき4キーワードの挿入

 戦後70年談話が発表された。侵略、植民地支配、反省、お詫びというようなキーワードを用いるどうか注目されていたが、これらの言葉は辛うじて用いられていたものの、いずれも首相本人の主体的な認識や気持ちを示してはいない。

 植民地については、20世紀の西洋諸国を中心とした「植民地支配」という事実にふれ、日露戦争が「植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」と述べて、戦前の日本を国際秩序への「挑戦者」となったとした。

安保関連法案に反対する「SEALDs KANSAI」の街頭演説に聴き入る人たち=14日午後7時46分、京都市下京区の京都駅前20150814拡大安倍談話が発表された夜も、安保法制に反対する活動に多くの人が集まっていた=京都駅前
 さらにそれと侵略については、敗戦後に日本は「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」と誓った、と述べただけである。

 そして、「反省」と「お詫び」については、「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持を表明してきました」として、「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」としたのみである。

 つまり、植民地支配や侵略については、西洋諸国の植民地支配について述べ、日露戦争をその解放者とする認識に言及し、日本の植民地支配については敗戦後の植民地支配からの訣別という誓いにふれただけで、日本の植民地支配についても侵略についても自らの認識としては語らなかった。

 そして、それらへの「反省」も「お詫び」も、過去の歴代内閣の表明という事実を述べ、「今後も、揺るぎない」とするだけで、自分自身の言葉としては「反省」も「お詫び」も一言も語らなかった。

主体性なき「軍国支配者の精神形態」と原発再稼働

 つまり、ここにあるのは事実の描写と過去の内閣の「反省」と「お詫び」だけで、自らの主体的な認識も気持ちも全くない。

 これを見て、私は敗戦後の代表的な政治学者・丸山眞男の「軍国支配者の精神形態」(『増補版 現代日本の思想と行動』未来社、1964年)を思い出した。

 戦前の日本の軍国主義者たちは、ドイツのナチズムとは違って、主体的な意思と行動に基づく強靭な精神を欠いており、膨大な「無責任の体系」が支配して戦争へと突入していった、というのである。

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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