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[6]「モーゼの十戒」? 地球の割れ目を歩く

白夜、フィヨルド、間欠泉……北欧の雄大な自然

伊藤千尋 国際ジャーナリスト

 北欧には独特の自然がある。船ならではの自然の味わい方もあった。北欧を後にする前に、その雄大な自然について記しておこう。

白夜

 夏の北欧は白夜だ。夜になっても空が明るい。フィンランドのヘルシンキは日の出が午前4時で日の入りが夜10時20分だった。北極圏に近いアイスランドに至っては日の出が3時4分、日の入りは夜11時50分で、「夜」はわずか3時間余りでしかなかった。1日のうち20時間以上も明るい「昼」なのだ。目がさめるとすでに明るい。寝る時も明るい。

ベルゲンの湊に沿って建つ木造の家並ベルゲンの港に沿って建つ木造の家並=撮影・筆者
 その間に寄港したノルウェーのベルゲンでは日の出が午前4時15分、日の入りは夜10時55分だった。ここは中世の時代に欧州北部の経済を支配したハンザ同盟で栄えた港町だ。

 世界遺産に登録されている木造三角屋根の建物が岸壁に沿って並び建つ。板壁が赤や白で塗られており、ケーキが並んでいるように見える。

 間口は狭くても奥が深く、長屋のように連なった部屋は絵画や細工の工房となって職人たちが腕を振るう。

 港に面した青空魚市場は活気にあふれ、名物のサーモンはもちろん、クジラや鹿肉のソーセージ、その場で握った寿司も販売している。

 ケーブルカーに乗ると市街を一望する丘の上だ。作曲家グリーグが暮らした家も近くにある。海辺には荘厳な城もある。見るべきものに事欠かない。

 船が着いたのは午前7時で、さっそく下船し、最高気温12度の街を自由行動で歩いた。帰船のリミットは夜10時なので時間に余裕がある。それが曲者だ。夜の10時になっても太陽はまだあかあかと照っている。時間の感覚がつかめず、夜という気がしない。

 10時までには船に戻らなければならない。遅れてしまえば、そのまま港に置いていかれる。そうなると自力で次の寄港地まで飛行機を探して行くしかない。門限の間際には駆け足で船に戻る人の列が続いた。

フィヨルド

 ベルゲンを出た翌日、船はフィヨルドを遊覧した。海に面した狭い湾に船が滑り込む。氷河が削り取った山肌が垂直に近くそそり立つ。幅はほとんど変わらず平均5キロなので、まるで川のようだ。

切り立った崖が両岸にそそり立つフィヨルド切り立った崖が両岸にそそり立つフィヨルド=撮影・筆者
 水面は穏やかで波がない。私たちの船が入ったのはこの国で最大、世界でも2番目に大きなソグネフィヨルドだ。204キロにわたって海が陸の奥深くまで入り込む。

 両岸は高さ1000メートルの切り立った崖だ。鏡のような水面に崖が映り、絵のような景色だ。ときおり、断崖を滝がほぼ垂直に流れ落ちる。

 行く手に見える山の頂は氷河あるいは万年雪で覆われている。空は曇りで鉛色だ。ときおり冷たい雨が降る。鳥も動物も見えず、まったく音がしない。自然の彫刻を前にして、船に乗っている人たちは言葉を失っている。

 入り口付近の水深はわずか100メートルだったが、内陸部では1300メートルになる、と船のアナウンスが告げる。

 船が進むにつれ、水辺に村が見えた。こんな場所にも人が住んでいるのだ。行き来する手段はボートだという。草地に羊が群れている。小さな家が固まり、教会や墓地もある。傘をさした男女4人がこちらを見て手を振る。人恋しいのだろう。

 行く手に湾をまたいで電線が張られていた。4597メートルの、世界で2番目に長い電線だと、船内アナウンスが告げた。船は自転車のような速度でゆっくりと進んだ。やがてフィヨルドの行き詰まりに達した。そこにはフロムの町がある。人口500人ほどの小さな町だ。鉄道の駅もある。桟橋にはフェリーが泊まっている。

 私たちの船はその手前でゆっくりと向きを180度変えた。来た道を戻る途中で支流のネーロイフィヨルドに入り、その奥にあるグドヴァンゲンに行った。ノルウェーで最初の世界遺産に登録されたのが、このネーロイフィヨルドだった。突然、上空の雲が切れ、青空が広がった。氷河が輝く。

 フィヨルドに入ってから出るまで、ほぼ1日かかった。

地球の割れ目

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