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「全国市民安保デモ」で「平成政変」は起こるか?

憲政擁護運動と市民革命の可能性

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

参議院採決と8・30全国市民安保デモ

 安保法案に関する参議院の審議では、政府の説明は次々と論理的に破綻しているにもかかわらず、政府は9月中旬にも強行採決する構えを見せ、局面はまさに緊迫している。

国会前のデモに集まった人たちを「憲政の神様」尾崎行雄の銅像が見守っていた=30日午後1時50分、東京・永田町20150830拡大国会前のデモで、「憲政の神様」尾崎行雄の銅像の近くにも多くの人が集まった=2015年8月30日
 安保法案について今国会での成立に反対する世論の声が極めて強いのにもかかわらず強行採決が行われれば、与党は「憲政」を蔑(ないがし)ろにしたことになり、政権の専制化は決定的なものになる。

 これに対して、8月30日には市民による抗議行動が全国約350カ所で行われ、国会議事堂前などでは12万人規模(主催者側発表)の大規模デモが行われた。

 これは、近年では最大級のデモであり、岸信介首相が退陣した60年安保闘争の時の約30万人のデモを想起させるから、「8・30全国市民安保(反対)デモ」と呼ぶことにしよう。

日本における市民革命の可能性

 これは、海外のメディアでも日本では珍しい現象として大きく報道されている。これまで、日本では一般に政治的意識が低く、デモなどの抗議行動への参加は少なかったと見られてきたからである。

 この理由は歴史的には、アメリカやフランスなどと比べて、日本では人々の力によって政権を覆し革命を起こした経験がなかったからであるとされている。政治意識の研究では政治活動に積極的な欧米の「市民文化」に対して、日本は「臣民型」などに分類されることが多い。

 近代日本の歴史の中で、人々が下から立ち上がって政治の大変革を行ったのが明治維新である。だから、日本において大規模な政治変革を目指す時には「維新」という言葉が用いられることが多い。「維新の党」はその例である。

 ただ、明治維新は下級武士が中心になって江戸幕府を打倒したが、近代の市民革命のように人々が民衆的に立ち上がったものとは言えない。また戦後最大の安保闘争のデモは岸内閣を退陣に追い込んだが、自民党政権の交代を実現させたわけではない。だから、日本は市民革命を経験したことがないと言われるのである。

 西洋では、ソ連や東欧圏で共産党政権が崩壊した1980年代末に、「東欧革命」という言葉のもとで政治的大変革が行われ、市民社会の出現が注目された。

 その後、日本でも阪神淡路大震災でNGO・NPOなどの現象が注目され、それは民主党政権への政権交代につながった。ただ、その際にも、大規模デモのような抗議行動が政権を覆したわけではなかった。

 だから、この抗議行動が政治的変革をもたらすことにつながれば、それは戦後日本にとっては新しい局面を切り開くことになるだろう。今の安保法制反対の声のうねりは、さらに発展していけば日本における市民革命を引き起こすことになりうるかもしれないのである。

イデオロギーを超えた、人々の力の目覚め

 この兆候は、イラク反戦運動の時から現れていた。1960年・70年の安保闘争においては、左翼的思想が強く、その下で労働組合などによる動員が行われていた。そのような時代の中で急進化した極左思想が内ゲバなどを起こしていったので、一般の人々の心は平和運動から離れていったのである。

 それに対して、2003年のイラク戦争の際には全世界で約1000万人の人々が反対のデモを行い、日本でも左翼イデオロギーとは無関係に多くの若者が立ち上がり、新しいデモを組織した。

 たとえば、かつてのように激しい怒号を浴びせるのではなく、平和を訴えておだやかに歩くピース・ウォークなどを行ったり音楽をはじめ芸術的な手法を用いたりして、普通の人々が「パレード」のように参加できる新しい運動を立ち上げたのである。

 それまでの平和運動は、戦争体験に基づく部分が大きかったので高齢者が中心になってきていた。

 その中で、若い人々の新しいセンスに基づく運動は、非常に新鮮な印象を与えた。私たちもそのような運動に共感しつつ研究者と市民との連携を試み、地球的な観点からの公共的平和の実現を目指して、「アート・オブ・ピース」(平和術)という言葉を提起し、イデオロギーを超えて、多くの人びとが参加できる新しい平和の思想と運動を提案した(*)
 *この思想については小林正弥「地球公共平和とスピリチュアリティ」(鎌田東二編『講座スピリチュアリティ学3 スピリチュアリティと平和』(ビイングネット・プレス、2015年)。地球公共平和ネットワークのサイトは、http://global-public-peace.net/

 その後、東日本大震災後の脱原発運動などでこのような新しい運動が再び現れて注目された。

 今回の反対運動は、これらに続く人々の運動が飛躍的に発展した形で現れたものと言えよう。ここには、確かに人々の目覚めと力が感じられるのである。

運動における「平和への結集」の時

 今回の安保法制反対運動を一気に拡大させたのは、 ・・・ログインして読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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