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現状が生んだ日韓対話の始点

 安倍談話の翌日(8月15日)、韓国にて朴槿恵大統領は毎年恒例の光復節(韓国の独立記念日)演説を行った。日本においても韓国の大統領演説は注目され、毎年、同日の夕方のニュースでは総理大臣と天皇陛下の全国戦没者追悼式における発言が紹介された後に、韓国の大統領の発言が並べて伝えられるのが通例となってきている。

 ただ、この演説文を検討する前に、予め押さえておかなければならないのが、韓国大統領の演説は韓国国民に向けて喜ばしい日を記念して述べるものだという点である。

ソウルで開かれた日本政府主催の記念式典であいさつする韓国の朴槿恵大統領=代表撮影20150622拡大朴槿恵大統領は、安倍談話に対して苦言を呈しつつ、一定の評価を下したが……=代表撮影
 実際、今年の大統領演説を見てみると、南北分断の歴史や課題、そして統一への希望が45%、この70年の経済発展についてが40%、日本(安倍談話)についてが15%といった内訳で話が進められており、日本についての発言は演説の終盤に触れるにとどまっている。

 日本では、その部分のみが報道されることが多いため、日本への批判に重点が置かれていると思われがちであるが、本来の意図や位置づけを正確に掴むためには全体像を理解する必要がある。

 また、日韓両国のメディアにおいて、朴槿恵大統領の安倍談話に対する「私たちとしては残念な部分が少なくないのは事実」との文言に注目が集まった。

 これまでの朴大統領の立場を考えれば、そうした面が強調されるのは致し方ないところではある。

 しかしながら、その文章は「歴史は隠してどうにかなるというものではなく、生き証人の証言によって生きている」と続き、安倍談話においてアジア全体への植民地支配と従軍慰安婦の問題についての謝罪と反省の立場が示されたことを歓迎している。

 安倍談話に対して苦言を呈しつつ、一定の評価を下したというのが演説から受ける印象であろうし、そうした発言の後に「新たな未来に進む」との文言も見られることから、日韓両国の国民が望んでいた両国の友好の方向に進むとの方針が示されたと考えて良い。

 ただ、安倍談話の何が朴大統領に残念と思わせたのかは指摘しなければならない。

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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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