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台湾総統選まで4カ月、政権交代ほぼ確実

小笠原欣幸 東京外国語大学大学院准教授(台湾政治)

蔡英文・民進党主席=撮影・筆者蔡英文・民進党主席=撮影・筆者
※本論考はAJWフォーラムで9月24日に配信した記事を転載しています。

 来年(2016年)1月の台湾の総統選挙の投票まで、あと4カ月となった。選挙戦は、与党・国民党の洪秀柱(ホン・シウチュー)氏、野党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)氏、そして小政党、親民党の宋楚瑜(ソン・チューユイ)氏の3人の争いであるが、すでに蔡英文氏の当選は確実ということで台湾内部の見方は一致している。

 関心は、同時に行われる立法委員(国会議員)選挙で民進党が過半数を確保できるかどうかに移っている。

 昨年(2014年)末の地方選挙での国民党の敗北は、馬英九(マー・インチウ)政権に打撃を与えた。それだけではなく、国民党と民進党という2大政党間の力関係を変える「地殻変動」とも言うべき意味深い変化をもたらし、総統選挙に向けて民進党有利、国民党不利の流れが早い段階でできた。

民進党、蔡英文主席の下に団結

 国民党は勝ち目が薄いので実力者がみな立候補を見送り、結局、主力級ではない洪秀柱氏を擁立せざるを得なかった。

 一方、政権奪還の可能性が高まった民進党は蔡英文主席の下に党内が団結し、安定した選挙支援態勢を構築した。国民党の内部が洪秀柱支持でまとまっていないのを見越した親民党の宋楚瑜主席も出馬を表明した。以前は、国民党の友党であった親民党が候補を立てたことで、国民党はさらなる苦境に陥った。

 民進党は、独立を志向する台湾ナショナリズムが強い政党であるが、蔡英文氏は6月の訪米で穏健な「現状維持」路線を打ち出し、中間派に支持を広げている。

 国民党は中国ナショナリズムの政党であるが、馬英九氏は2008年と2012年、穏健な「台湾化」を掲げ中間派の支持を確保することに成功した。しかし、今回、洪秀柱氏は中国ナショナリズムに回帰した政策を掲げ、中間派の支持を失った。

ナショナリズムと距離置く中間派

 台湾の選挙市場における台湾ナショナリズムと中国ナショナリズムはどちらも少数で、中間派が多数である。ただし、「中間」とは無色の「中間」ではない。それはナショナリズムとは距離を置くが、台湾への愛着が強い台湾アイデンティティー(台湾意識)をベースにしている。

 中国の影響力の高まりは台湾においてもますます明確に感じられるが、「台湾は台湾、中国とは別」が人々の自然な感覚になっている。昨年のヒマワリ学生運動はその現れである。4年に1度の総統直接選挙を20年にわたって実施してきたことが台湾意識を育んだ。

 中国は表面上台湾の選挙を静観している。中国側が台湾との交流の前提条件とし、4年前の総統選挙で馬英九氏の再選に一定の効果を発揮した「1992年コンセンサス」は、今回は決定打にはならないだろう。

 中国が、強硬な言動などで選挙に介入しても蔡氏当選の流れを変えるのは難しいし、反発を買うだけである。むしろ中国は、選挙後に台湾への圧力を強めて来るであろう。蔡英文氏を「反中国」と決めてかかる必要はないが、蔡政権は馬政権よりは日米との関係を重視するであろうし、中国にとって面白くない政権になることは間違いない。

 中国は蔡氏の得票率が50%を超えるかどうか、そして立法院で民進党が過半数を取るかどうかを注視している。中台関係がギクシャクするのは避けられないが、それがどの程度の摩擦になるのかは、今後の民進党と中国・共産党との駆け引きによる。

 中台間で摩擦が発生すれば、中国が日米に圧力を強めることも予想される。日米にとっても非常に関心の高い選挙である。