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いまだ中東戦略を描けぬオバマ政権

「Want」「Should」「Can」の複雑な連立方程式を解く必要がある

渡辺靖 慶応義塾大学SFC教授(文化人類学、文化政策論、アメリカ研究)

事前対応的にビジョンを示せないオバマ政権

 10月15日、オバマ大統領はアフガニスタン駐留米軍について、2017年以降も継続駐留させる方針を発表した。自らの任期中の完全撤退を選挙公約に掲げていたオバマ大統領だが、ついに断念せざるを得なくなった格好だ。

ホワイトハウスで会見するオバマ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影拡大ホワイトハウスで会見するオバマ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影

 現在、アフガンには9800人が駐留し、旧支配勢力タリバンと戦うアフガン軍の訓練や作戦指導などに従事している。当初、オバマ大統領は16年末までに米大使館の要員ら約1000人を残して完全撤退させる方針だった。しかし、今回発表された計画では、17年以降も5500人を継続駐留させることになった。新たな完全撤退の時期や道筋は示されていない。

 方針転換の理由としては、アフガン軍の育成が計画通りに進んでいない点や、治安悪化を懸念するガニ大統領から継続駐留を要請されていた点などが挙げられる。

 稀に見る党派対立が続くアメリカ国内では、当然ながら、共和党、とりわけ保守派からの批判が相次いでいる。「結局、選挙に勝つための方便に過ぎなかったことが立証された」「撤退時期を公にするなど戦略的に稚拙すぎる」「はじめから撤退ありきの軍事作戦などあり得ない」等々。

 とはいえ、駐留継続の判断そのものについては、民主党・共和党問わず、概ね支持されている。撤退に拘泥するあまり、アフガンに新たな力の空白を生み出し、イラクの二の舞にしてしまっては元も子もないからだ。

 ただ、今回の方針転換は、より根源的な次元で、オバマ政権の中東政策に対する不安を増幅させるものでもある。いわば、リアクティブ(事後対応的)な対応に終始し、プロアクティブ(事前対応的)に「こういう中東にしたいという」というビジョンを示せないことへの不安である。

シリアをどうしたいのか?

 例えば、シリアやイラクで勢いを保つIS(「イスラム国」)についても、オバマ政権は掃討作戦の柱を担うシリア反体制派の訓練を断念している。アサド政権を支援するロシアは、その隙を突くかのように、シリア空爆を開始、ISのみならず反体制派もその標的になっていると伝えられる。10月20日にはアサド大統領がモスクワを電撃訪問している。オバマ政権はシリアをどうしたいのだろうか。

 ロシアの動きに対抗するかのように、10月30日にはシリア北部でISと戦う反体制派を支援すべく、軍事顧問として最大50人の米軍特殊部隊の派遣を発表したが、当然、地上作戦の拡大は内戦を泥沼化させる危険性もある。

朝日新聞のインタビューに答えるシリアのアサド大統領=2009年3月拡大朝日新聞のインタビューに答えるシリアのアサド大統領=2009年3月

 そもそも、シリアをめぐっては、オバマ大統領自ら「アサド政権による化学兵器の使用はレッドライン(越えてはならない一線)だ」と明言していたにもかかわらず、実際の軍事介入に踏み切ることは出来ず、しまいには「アメリカはイラクとアフガニスタンの二つの戦争を戦った後で、他の国の内戦を解決することは出来ない」「アメリカは世界の警察官ではない」と変節。中東のみならず、多くの同盟国や友邦国を動揺させる結果になった。

 10年にチュニジアから始まった「アラブの春」は、ある意味、ブッシュ前政権が目指した「中東の民主化」が思わぬ形で実現した格好となったが、いざ選挙が行なわれてみると、必ずしも親米的とは言えない政権が相次いで誕生した。イスラム原理主義勢力も台頭し、アメリカにとっては好ましくない状況が出現した。かといって、選挙の結果である以上、頭ごなしに否定も出来ず、干渉すれば反米感情を煽りかねない。

 中東における最大の同盟国の一つであるエジプトでは、同国初の自由投票による大統領選挙でムスリム同胞団が擁立したムルシ政権が誕生したが、軍部のクーデターによってわずか1年で転覆。オバマ政権はエジプト軍の合同軍事演習を中止したものの、「クーデター」とは認定できないままでいる。アメリカの法律では、原則、軍事独裁政権には軍事支援ができないからだ。

足元の乱れを露呈したアメリカ

 核開発問題をめぐり対立を深めていたイランとは歩み寄りが見られるが、そのことがサウジアラビアやイスラエルといった親米国家の疑心暗鬼を助長している。15年3月にはイスラエルのネタニヤフ首相が訪米、米連邦議会の上下両院合同本会議で演説を行なったが、これは安保保守派や宗教保守派を支持基盤とする共和党がホワイトハウスや民主党側との調整を欠いたまま強行したもので、アメリカの足元の乱れを露呈するものだった。

 ケリー米国務長官は中東和平の仲介役として、約9ヶ月間にもわたって関与を続けたが、イスラエルとパレスチナの相互不信を払拭できぬまま、14年4月に交渉は頓挫した。この間、アメリカの反対を押し切る形で、イスラエルはパレスチナ人政治犯釈放を見送り、パレスチナは国連への加盟申請を強行している。

 従来、親米政権とあればエジプトやサウジアラビアの強権国家とも関係を深めるなど、「ダブルスタンダード(二重基準)外交」と非難されながらも、強引につなぎとめていた中東のジグゾーパズルはどんどん剥がれ落ち、それをどのような方針で、どの状態に、どう修復するのか、オバマ政権はビジョンが示せずにいる。

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筆者

渡辺靖

渡辺靖(わたなべ・やすし) 慶応義塾大学SFC教授(文化人類学、文化政策論、アメリカ研究)

1967年生まれ。ハーバード大学国際問題研究所アソシエート、パリ政治学院客員教授などを経て現職。ハーバード大学Ph.D。著書に『アフター・アメリカ』(慶応義塾大学出版会)、『文化と外交』(中公新書)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)、『<文化>を捉え直す』(岩波新書、近刊)など。