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「ガザ脱出」現地報告(上)――沈んだ密航船

イスラエル、パレスチナ自治政府、エジプト……政治的対立の果てに

川上泰徳 中東ジャーナリスト

船が沈没、犠牲者の大半がガザからの密航者

 欧州に向かうシリア難民が大きな問題となっているが、パレスチナ自治区ガザからの密航者が後を絶たないという。

 ガザに支部がある欧州地中海人権モニターの広報担当マハ・フセイニさんは、「シリア難民の陰に隠れて目立たないが、ガザからの密航者は大きな問題となっている。イスラエルによる封鎖が続き、6年間で3回の大規模攻撃もあり、人々は希望を失っている」と語る。

 ガザは2014年7月から8月下旬まで、50日間に及ぶイスラエルの大規模攻撃があり、2200人が死亡、全壊した9000戸の家屋を含む2万3000戸が損傷を受けた。

 イスラエルの攻撃が終わった直後の2014年9月、エジプトの地中海岸の都市アレクサンドリアを出港した密航船が地中海で沈み、400人から450人の密航者が死んだ事件があったが、そのうちの300人以上がガザ出身者だった、とマハさんは明らかにした。

 「ガザの人々は封鎖と戦争で希望を失っており、それが命がけの密航に向かう原因となっている。密航に向かうのは貧しい人々だけではなく、比較的豊かな生活をしていた人々も含まれている」と語る。

 この沈没事件で救助されたのは11人だけで、うちガザ出身のパレスチナ人が8人、シリア人2人、エジプト人1人。欧州地中海人権モニターは、この沈没事件について英語とアラビア語で報告文を出している。

 それによると、船はアレクサンドリアを2014年9月6日に出港した。乗客は一人2000ドルから4000ドルを密航斡旋業者に支払った。乗船客には家族連れも多く、乗客のうち100人は子どもだったという。

2014年9月にエジプトアレクサンドリアを出港し、地中海で沈没した密航船の航路(出典:欧州地中海人権モニターの報告書から拡大2014年9月にエジプトのアレクサンドリアを出港し、地中海で沈没した密航船の航路(出典:欧州地中海人権モニターの報告書)

生存者は海を4日間、漂流

 報告文によると、密航船はイタリアを目指したが、出航から2時間後に、乗客は別の船に移るようにいわれ、さらに2日後の8日、別の船に乗り換えた。船に積まれている食料は不足し、子どもたちに優先的に与えられたという。

 10日に乗客はまた別の船に乗り移るようにいわれたが、用意された船は16~18メートルほどで、全員が乗るには小さすぎるとして、乗船を拒否した。

 そこへ、別の小さな船が現れた。そこにはエジプトなまりのアラビア語を話す男たちが乗っていた。その船は密航者たちが乗った船にわざと船体をぶつけ、穴をあけた。船は浸水し、沈み始めた。

 乗客は海に投げ出され、多くがすぐに溺れたが、100~150人が船の縁や漂流物につかまって漂流した。しかし、寒さとのどの渇きなどで少しずつ力絶えて、溺れていった。それでも50人ほどが海の上で身を寄せ、「人間の鎖」をつくったが、沈没から3日目に風と波が強くなり、バラバラになったという。

 漂流4日目に通りがかった貨物船が7人を救助して、ヘリコプターを呼び、ギリシャのクレタ島に移送した。だが、そのうち一人は9カ月の乳児で、救助された後に死んだという。さらに別の2隻の船で計5人が救助され、イタリアやマルタ島に移送された。

 この沈没事件について、欧州地中海人権モニターは、▽エジプト、イタリア、マルタは協力して密航斡旋業者の捜査と摘発の実施▽欧州連合は、溺死者の遺体を捜索し、密航者の家族へ連絡▽難民を出しているシリアやパレスチナについて国際人権法に基づいて人々の生活を改善する――などと勧告している。

4人家族で密航に参加

地中海を渡る密航船で死んだ兄の家族について語るアミーラ・シャースさん=8月、ガザ市で拡大地中海を渡る密航船で死んだ兄の家族について語るアミーラ・シャースさん=2015年8月、ガザ市で、撮影・筆者
 この密航船に乗って、行方不明となった中に、ガザ中部ハンユニスの4人家族がいた。父親アラ・シャースさん(28)と母サファさん(28)、長男バラアちゃん(3)、長女イスラアちゃん(1)だ。

 アラさんの妹のアミーラ・シャースさん(25)に話を聞いた。 ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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