本土と沖縄と米国 -ワシントンは辺野古一辺倒ではない
2015年11月01日
本年10月13日、沖縄県の翁長雄志知事が前知事による辺野古埋立の承認を取り消した。これに対し安倍政権は強硬姿勢を崩さず、工事再開に向けて即座に手続きを進めた。執行停止の申し立てを行い、承認取り消し処分が違法であるとして地方自治法に基づく代執行の手続きに入ると決定し、同月29日には埋め立てに向けた本体工事に着手した。
沖縄では県民の79%が知事の承認取消を支持し(沖縄タイムス同月20日)、普天間基地の沖縄県内移設には実に83%が反対している(琉球新報2015年6月2日)。この世論調査の結果を待つまでもなく、沖縄は今「オール沖縄」で辺野古の新基地建設反対を訴えており、昨年の選挙では建設に反対する候補者が、辺野古の基地建設現場を抱える名護市長選、県知事選、衆議院選の総てで連続して勝利をおさめている。オール沖縄の代表である翁長知事は「あらゆる手段を使って辺野古の基地建設を阻止する」と訴え続けている。
これまでも問題視されてきたものの、これまで以上に日本本土と沖縄の対立構造が明らかになり、沖縄では基地負担は本土から沖縄に対する差別であるとの評価が定着しつつある。
「いつまでたっても辺野古に基地はできないと思うよ」
9月上旬、ふとした立ち話の際、米国の友人が私にこのように言った。長年、米国政治の中心で日本を担当してきたその友人は、共に話に加わっていた日本の外務省の知人に向かって「あなたには申し訳ないけどね」と付け加えた。
翁長知事による埋め立て承認取り消しの後、米国務省は辺野古沖への普天間基地の移設について「米軍再編という構想を実現させるためには不可欠な措置」と述べ、沖縄の対応によっても日米の計画には変更がないとの認識を発表した。米国といえば、辺野古基地建設を頑なに推進する主体であるとの理解が日本国内では一般的であろう。確かに公式なレベルでの日米合意はこの間変わっていない。
しかし、ワシントンの内実はそれほど辺野古一辺倒でもない。上に発言を引用した友人は、国務次官補候補にも名前もあがる人物であるが、このように辺野古案を疑問視する意見や代替案の提示、また、別の案の検討を要するとする意見が頻繁に出されている。
その代表格は、2011年5月に、重鎮議員であるジョン・マケイン(現職)、カール・レビン(当時)、ジム・ウェブ(当時)氏ら3名の上院議員が出した声明である。「現在の再編計画は非現実的、実行不可能かつ財政的に負担困難」として、辺野古案の再検討を求めるものであった。そして米議会は実際に普天間基地からグアムに海兵隊を移転する予算を凍結し、この予算凍結が辺野古移設を間接的に困難にさせたともいわれている。
また、日本の外交・安全保障政策にもっとも大きな影響力を有すると日本で広く理解されているリチャード・アーミテージ元国務副長官も「代替案が検討されねばならない」と2010年頃から公の場で述べていた。
同様に強い影響力を持つとされるジョセフ・ナイ元米国防次官補も辺野古については長期的には解決策にならず、中国の弾道ミサイルの射程内にある沖縄に米軍基地が集中する現状を変えるべきであると指摘している。なお、ナイ氏は、「沖縄の人々が辺野古への移設を支持するなら私も支持するが、支持しないなら我々は再考しなければならない」とすら述べている。
なお、本年、米議会にて、グアム選出の議員が、米国の軍事予算を決定する国防権限法(2016年度)の中に普天間基地の移設先は「辺野古が唯一の選択肢である」との文言を挿入しようと試みた。しかし、沖縄関係者のロビーイングの成果もあり、最終的には両院協議会のすり合わせにより同条文は削除されるに至った。
このように、ワシントンには、普天間基地の移設について様々な意見が存在する。日本本土の専門家の間では辺野古が唯一の選択肢であるという見解が大半を占めるのに比べて、米国の方がずっと柔軟な印象である。
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