2015年11月27日
※本論考はAJWフォーラムで10月26日に配信した記事を転載しています。
中国人民銀行は8月11日、為替レート制度を変更することを発表し、3日連続で人民元レートを下方に誘導した。
ほとんどのメディアがこれを「輸出振興のための元安誘導」だと報じたのは誤りで、実は人民元を国際通貨基金(IMF)の管理する「特別引き出し権(SDR)」の通貨バスケットに入れてもらうためにIMFが7月に出した宿題を達成すること、すなわちレートを市場実勢に応じて動きやすくすることが目的だった。
しかし、IMFも中国も大きな見落としをしていた。
おかげで人民元は一転して弱くなり、いまや中国の企業も国民も「元は先安」と見て、機会があれば人民元を外貨に持ち替えようとする時代になっている。
そんな環境下で「元安誘導」を疑われるような措置を採ったせいで、元安投機が起きてしまい、中国の外貨準備は、おそらく中国人民銀行が元安進行を食い止めるための為替介入を行ったせいで、8月は940億ドル、9月は430億ドルも減少してしまった。
世界はこれまで1年かけて、今後の世界経済が、米国の利上げと中国という二つのリスクに直面することを織り込んできた。しかし、もう一つ人民元という想定外の問題が隠れていたようだ。
元レートが今の高め水準を維持し続けることは、中国経済の現状に照らして荷が重そうだ。世界経済の成長に対する中国の貢献の大きさを考慮するなら、いっそ1~2割の元安を認めて中国経済に一息つけさせた方が世界経済全体にとっても有益なのかも知れない。
しかし、いったん、それを認めると、途上国や新興国がドミノ式の通貨安に見舞われ、通貨危機に陥る国が出るかもしれない。
だとすれば、元安はやはり良い考えではなく、中国は元レートを安定させなければならないのかもしれない。ところが、元安を防ぐ市場介入をするとなると、中国は、溜(た)めてきた米国債を含むドル建て資産を取り崩して売却しなければならなくなる。
米連銀はリーマンショック以降、量的緩和のために3.5兆ドル分の債券を買い上げたが、同じ時期に中国の外貨準備も2兆ドル程度増加した。いまや総額は3.6兆ドルあり、その過半はドル建て債券だ。
中国がこれを急に売却すれば、債券が値崩れしてドル金利に上昇圧力が働く。つまり、中国人民銀行は米連銀と並んで、米国金利に影響を与えられる「シャドー連銀」のような立場に立っているようなものだ。
米国の利上げと中国の米国債売りが時期的にかち合う形で起きることは、誰も想定してこなかった。もし二つがかち合えば、世界経済は米国がいちどきに2回分利上げしたのと同じ、恐らく耐えがたいダメージを食うことになる――米中両国だけでなく、少なくともG7はこの新しい問題を話し合う必要があるが、そうした国際協調を可能とする中国と各国財務当局間の相互信頼は欠けているように見える――ということは、金融投機家の前に大きな骨付き肉が投げられたようなものではないか。
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