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戦争拡大は嫌、でもテロ対策は必要ー内向きな米国

冷泉彰彦 作家、ジャーナリスト

アフガン撤退延期への批判が起きない訳

 2015年10月15日、オバマ大統領は会見を行い、2017年以降についてもアフガニスタンに5500人体制で米軍を駐留させると発表した。これは、現在は9800人体制である駐留米軍を2016年末までに撤退させるという当初の計画が挫折したことを意味する。政策目標が達成できなかったという意味で政治的敗北であるが、同時にタリバン勢力の伸長を阻止できなかったという戦闘面での敗北でもある。

会見するオバマ大統領=2014年12月、ワシントン、ランハム裕子撮影会見するオバマ大統領=2014年12月、ワシントン、ランハム裕子撮影

 戦闘面での敗北というのは、2015年6月22日に発生した首都カブールの国会議事堂がタリバン勢力によって攻撃を受けた事件、同年9月以降のクンドゥス攻防戦でのタリバンの攻勢といった状況から明白だ。今回の撤兵延期というのは、こうした情勢下、ガニ大統領率いるカブールのアフガン政府からの強い要請を受けての判断であると言える。要するに米軍の支援を受けた政府軍が劣勢に追い込まれているのである。

 だが、オバマ政権に苦悩の色は見えない。アメリカの世論にも政界にも、この撤兵延期への批判は見られないからだ。

 何故なのだろうか?

 まず二大政党の姿勢だが、野党の共和党からすれば、これは「オバマの失政」として追及がされてもおかしくない問題だ。作戦全体が失敗しつつあり、政権が国民に約束した撤兵期限が守れないということは十分に非難に値するからだ。

 だが、共和党側からの批判は少ない。それどころか、2016年の大統領選へ向けて「軍事タカ派」的な言動を強めているカーリー・フィオリーナ候補などは「テロを許さないという姿勢を見せるためには正しい判断」だとして、駐留延長への支持を表明している。「強いアメリカ」の復権を目指す共和党のタカ派としては、アフガニスタンにおけるアメリカの軍事プレゼンス維持には賛成なのだ。

 一方、与党の民主党だが、2004年にジョン・ケリー候補が当時のブッシュ大統領に挑んだ選挙にしても、2008年のヒラリーとオバマの熾烈な予備選を経てオバマが大統領に当選した選挙にしても、ブッシュの戦争政策には一貫して反対していた。

 だが、特に2006年頃から、その反対姿勢というのは主として「イラク戦争への批判」に集中して行った。これと同時に「ブッシュのイラク戦争を批判するためにはアフガン戦争は肯定する」というのが民主党の姿勢になって行ったのである。

 冷静に見れば、タリバンはビンラディンの「差し出し」を拒んだだけであり、911のテロに直接責任があるわけではないことから戦争の大義は脆弱であるし、そもそもタリバンとの戦争は14年という長期にわたる中、水面下では何度も和平交渉が行われるなど政策面での迷走は歴然としている。

 だが、民主党はいつの間にか「アフガン戦争は正しい戦争」だというのを党の政策に据えるようになった。それは、党内最左派とも言える「自称反戦主義者」のバーニー・サンダース候補にまで及んでいる。オバマ大統領と、ヒラリー・クリントン国務長官のコンビで実施された「パキスタン領内でのオサマ・ビンラディンの一方的な殺害」という事件も、民主党のそのような政策を前提にアフガン戦争の一環として行われたし、現在でもこれに対する党内の批判はない。

 オバマ大統領の撤兵延期声明を受けて、議会民主党あるいは民主党の大統領候補達からの異論は少ないが、その背景にはこうした民主党全体のムードがある。

http://www.huffingtonpost.com/entry/democrats-obama-war-afghanistan_56251990e4b02f6a900d169c

二大政党の惰性を支える世論の無関心

 アフガン戦争に関して、二大政党の双方が「敗北の責任を批判しない」一方で「撤兵延期にも反対しない」という惰性的な姿勢を取っている背景には、こうした「正しい戦争」論や「強いアメリカ願望」があるだけではない。そこにあるのは世論の無関心だ。

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