土井香苗(どい・かなえ) 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表
国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表。1975年生まれ。東大法学部在学中の1996年に司法試験に合格後、4年生の時、NGOピースボートで、アフリカの最貧国エリトリアへ。同国法務省で1年間、法律作りを手伝うボランティア。98年に大学卒業、2000年に司法研修所終了。著書に「“ようこそ”といえる日本へ」(岩波書店 2005年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
DVが日常茶飯事の国に日本政府ができること
「夫を逮捕してほしい」
アリスさん(仮名)はパプアニューギニアの警察に4度も訴えました。2011年に結婚したアリスさん。でも数カ月が経つと、夫が暴力を振るうようになったからです。
夫が職場に現れて暴力を振るうまでになり、アリスさんは仕事も失ってしまいました。2013年には自動車の陰に引きずりこまれジャッキで殴られ、夫が仕事で携帯しているピストルの握りで頭を殴られ……3度の訴えにも、警察は門前払い。4度目の申し立ては、一応受理はされたものの、結局夫は逮捕されませんでした。
パプアニューギニアまで出かけてアリスさんの話を聞いたのは、私の同僚のヘザー・バー調査員。ヘザーに対し、腕と顔に傷の残るアリスさんは、言ったそうです。
「それで思い知らされました。どうせ助けてなんてもらえない。もうどうしようもないんだって。この世の終わりだって何度も思うんです」
アリスさんの身に起きたことはパプアニューギニアではありふれたものです。この国ではDV=ドメスティックバイオレンスが日常茶飯事となっているからです。
パプアニューギニアでは2013年、「家族保護法」が成立しました。厳しい罰則を新設し、被害者が保護命令や支援を得やすい仕組みにしました。
しかし2年を経ての今もなお、この法律はまったく使われていません。規則を作るのが先だというのが政府の言い分です。しかし政府が手をこまねく一方で、被害が止むことはありません。
私たちヒューマン・ライツ・ウォッチは今回の報告書作成にあたり、未成年者を含むDVのサバイバー数十人から話を聞きました。