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イギリス労働党コービン旋風が問う「格差」(中)

個人の視点と、痛みや苦悩への共感

坂本達哉 慶應義塾大学経済学部教授

コービン旋風の新しさ――「階級」から「個人」へ

 たしかに、コービン党首の目玉政策は「ニュー・レイバー」以前への先祖返りを思わせる。鉄道事業の再国営化、法人税の引き上げによる大学授業料の無償化、国民健康保険制度(NHS)の強化など、いずれも「大きな政府」の主張であり、ブレア以前の労働党の政策だ。

 しかし、彼の発言を注意してフォローすると、古い労働党とは明らかに異なる特徴があることに気づく。

一般党員の感情をすくい上げた拡大コービンは「労働者階級」から「個人」に力点を置いているようだ
 なかでも、「階級」から「個人」への力点の変化がある。

 伝統的な労働党のレトリックでは、「労働者階級」がキイワードであった。労働党は何よりも労働者階級の党であり、その利益に奉仕する組織であるという考え方だ。

 この考え方は、ブレア氏による党規約第4条の改正によって克服されたはずであったが、実際には、党組織の体質として、いまなお色濃く残っている。

 しかし、1980年代以降、サッチャー政権による新自由主義的改革によって経済格差が増大し、とりわけ2008年のリーマン・ショック以降、「スーパーリッチ」と呼ばれる超富裕層が出現すると、伝統的な労働者階級の意識が、自由競争の敗者の感情に変化し、党の性格も、経済的弱者の救済機関というネガティブな性格をおびるようになっていた。

 この事情をさらに複雑にしているのは、

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筆者

坂本達哉

坂本達哉(さかもと・たつや) 慶應義塾大学経済学部教授

1955年東京生まれ。現在、慶應義塾大学経済学部教授。博士(経済学)。主要著作に『ヒュームの文明社会』(創文社、1995年)、『ヒューム希望の懐疑主義』(慶應義塾大学出版会、2011年)、『社会思想の歴史』(名古屋大学出版会、2014年)がある。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです