「数量公平」ではなく、「質的公正」を実現すべきだ
2015年12月24日
前稿で書いたような中立傾向を固定化させているのが、放送法の番組編集の基準を定めた「政治的公平」規定である。
メディアにおける「公平公正」とは何か?(上)――ジャーナリズムを縛る「魔法の呪文」(WEBRONZA)
前回冒頭で紹介した意見広告でも取り上げられるなどすっかり有名になったこの規定は、現在の放送法では4条1項2号にあたるが、その意味を理解するには制定過程を確認しておく必要がある(放送法の全文)。
1949年第7通常国会に提出された「放送法案」では、法案45条(政治的公平)に以下の規定があった。
(1)協会の放送番組の編集は、政治的に公平でなければならない。
(2)協会が公選による公職の候補者に政見放送その他選挙運動に関する放送をさせた場合において、その選挙における他の候補者の請求があったときは、同一の放送設備により、同等な条件の時刻において、同一時間の放送をさせなければならない。
ここからわかるように、この政治的公平の規定は、NHK(日本放送協会)のしかも選挙報道を念頭に置いたものであることが分かる。そして1つ前の法案44条3項にはこうある。
協会は、放送番組の編集に当っては、左の各号に定めるところによらなければならない。
一 公衆に関係がある事項について、事実を曲げないで報道すること。
二 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
三 音楽、文学、演芸、娯楽等の分野において最善の内容を保持すること。
上記の45条1項と44条3項が、国会審議の過程の中で合わさり、新しい44条3項が出来上がる。
協会は、放送番組の編集に当っては、左の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実を曲げないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
まさに現行の規定とほぼ同じものだ(その後の改正で、1号に関して部分的に字句の修正がなされる)。
さらに、修正過程で付け加わった新53条の「第44条第3項の規定は、一般放送事業者に準用する」との一文によって、民放への適用拡大が決まることになる。
すなわち、法案提出時には「NHK選挙規定を念頭に置いた規定」であったものが、「NHK一般規定」となり、さらに法案成立段階では「民放も含めた放送全体の番組規律」に昇格してしまったのである。
その結果、選挙報道時の候補者には同じ時間を与えるといった、
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