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[5]横軸としてー海外での民主化・抗議運動

グーグル・アラブの春・グローバル化・プライバタイゼーション

外岡秀俊 ジャーナリスト、北海道大学公共政策大学院研究員、元朝日新聞編集局長

IT革命とグローバル化

 21世紀の10年代に、世界各地で起きた民主化・抗議運動を見ると、その背景に二つの大きな流れがあることに気づく。

 ひとつはIT革命による大きな時代の変化であり、もうひとつは、20世紀末から進行しているグローバル化の流れだ。この二つは地球規模で広がっており、それぞれの国、民族、地域性といった異なる縦軸と交わることで、まったく違った現象となって現れた。

 その意味で、この横軸と、日本の戦後史の交わる座標空間で出現した日本の「リベラル」と、他の 国々との事例を、かんたんに比較することはできない。しかし、地球規模で進む普遍的な潮流を知ることで、2015年の夏に日本で起きた現象を、より深く理解する助けにはなるだろう。

相互接続権力

 「インターネットと相互接続権力の台頭」という耳慣れない言葉を扱った論文が「フォーリン・アフェアーズ・リポート」に掲載されたのは、2010年10月号だった。筆者は、IT革命の旗手であるグーグルのエリック・シュミット最高経営責任者と、同社のアイデアズ・ディレクターの肩書をもつジャレット・コーエン氏だった。その後に起きた「アラブの春」の騒乱を振り返れば、実に先見の明のある論点を網羅していると思う。

グーグルCEOのエリック・シュミット氏拡大グーグルCEOのエリック・シュミット氏

 二人は携帯電話やインターネットで相互に連絡を取り合う人々が形成するバーチャル・コミュニティーを「相互接続権力」と呼ぶ。そしてこの新たな権力が、政府の力を弱め、市民の力を強める方向に社会を変化させると説く。

 低開発社会では、よりオープンで透明性の高い社会を実現するように求める民衆の圧力が生まれ、政治的な緊張を高める。一方で政府も反政府勢力を封じ込める新たな技術ツールを手に入れ、より閉鎖的で抑圧的な社会が出現するかもしれない。民主国家の政府は、自分だけでは物事を進められないことを自覚し、企業や非政府組織と連帯しなくてはいけない。そういう趣旨の論文である。

 「相互接続権力」は、「interconnected estate」の訳語である。この原語からわかるように、この言葉は、「第4の権力」と呼ばれた伝統的なメディアに代わる「階級」や「地位」を指す「エステート」を組み合わせた造語だ。

 「テクノロジーが政治を変える」という考えは目新しいものではない。二人は歴史を振り返ってそういう。グーテンベルグの活版印刷の発明は革命的だが、プレス機をもつ者が何をだれに配布するかを決定できたので、アクセスは制限されていた。しかも抑圧的な政府は印刷機をプロパガンダなどの社会管理や抑圧ツールに逆離島した。

 冷戦期の前半には民間企業がラジオ放送を運営し、後半では衛星テレビが普及した。しかし市民には、放送局を立ち上げたり、放送時間を確保したりする力はなかった。

 1979年のイラン革命では、ホメイニ師がカセット・テープで遠隔地から指示を与え、ソ連と東欧諸国の反体制活動家はコピー機とファクスを利用して運動をもり立てた。

接続テクノロジー革命がもたらす変化

 しかし、現在進行している接続テクノロジー革命は、まったく違う変化をもたらす。個人が政府の規制を受けずに情報を入手し、自ら発信できるようになったからだ。この新しいテクノロジーと自由への希求が合流すると、もっとも起こりそうにない地域に政治的な変化が起きる。

 二人がその例としてあげるのは、2008年にコロンビアで失業中のエンジニアが、フェイスブックとスカイプで呼びかけ、実現させた左翼ゲリラ・コロンビア革命軍に反対する大規模デモだ。

 モルドバでは09年、選挙の不正に抗議のデモをした若者たちが、ツイッターで世界に拡散させた。内外の圧力が高まり、選挙は無効となり、再選挙で約半世紀ぶりに非共産政権が生まれた。

 だが同じ技術はテロ組織や麻薬組織などのリクルートや取引にも使われている。アフガニスタンでは女性たちが携帯電話を使ってコール・センターを運営できるようになった一方、09年にはカブールの刑務所に収監されたタリバン指導者が携帯電話を使って政府への波状攻撃を指揮する事件が起きた。

 これだけなら、文明の利器がいかようにも使われる、という問題の最新版にすぎないかもしれない。問題は、相互接続権力が、国境には左右されず、各国のさまざまな国内法でのみ規制される点だ。二人は、1648年のウエストファリア体制のような国民国家による規制は十分には機能しない、と主張する。

 しかも、新たなテクノロジーは、若年人口比率と失業率が高く、統治能力が乏しいか崩壊した途上国において、体制を動揺させ、政府をますます不安定化させる。

「アラブの春」

 二人の予見をまさに裏づけたのが、「アラブの春」だったといえる。

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筆者

外岡秀俊

外岡秀俊(そとおか・ひでとし) ジャーナリスト、北海道大学公共政策大学院研究員、元朝日新聞編集局長

1953年生まれ。東京大学法学部卒。朝日新聞入社後はニューヨーク特派員、欧州総局長などを経て2006年から07年にかけてゼネラルエディター兼東京編集局長。11年3月に早期退社。著書に『地震と社会』(上・下、みすず書房)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)、『3・11 複合被災』(岩波新書)など。中原清一郎名義で小説『未だ王化に染はず』(小学館文庫)、『ドラゴン・オプション』(小学館)、『カノン』(河出書房新社)がある。

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