台湾では運動が現実政治に変化をもたらしたが、香港では目に見える成果は出ていない
2016年01月15日
反グローバル化運動とは直接のつながりを持たないが、「オキュパイ」運動の形態は、アジアで二つの運動に大きな影響を与えることになった。
ひとつは、昨年3月に台湾で起きた「太陽花学運」、ひまわり学生運動である。これは、2013年3月18日に国民党政府が中国と調印した「海峡両岸サービス貿易協定」をめぐる審議で、立法院の内政委員会が強行採決をしたことがきっかけで起きた運動だった。
学生たちが立法院を占拠し、「密室政治」に抗議すると、支持者が立法院の外にも詰めかけ、大きな抗議運動に発展した。3月30日には集会が開かれ、総統府前に警察発表で11万人、主催者発表で50万人が参加した。
こうした運動の結果、馬英九総統は、立法院の監視機能を定めた条例を法制化するまで、サービス貿易協定の審議はしないことを約束し、4月10日に学生たちは立法院から自主退去した。海峡両岸サービス協定は、中国側が80分野、台湾側が64分野のサービスや貿易制限を互いに撤廃し、自由化を行う経済協力協定だ。
「ひとつの中国」を否定しない馬英九総統は、それまでにも、自由貿易協定にあたる「両岸経済協力枠組み協議」に調印し、大陸からの個人観光客解禁など、中国との協力関係を深める姿勢をとってきた。しかし、急速な大陸への接近には、野党民進党から強い批判が出ていた。
今回は、輸出依存度の高い台湾の中小企業から懸念の声があがり、人材の流出や、出版などで「中国化」が進むことへの不安も募った。審議そのものが不透明だったこと、既成政党への不信があったため、「立法院占拠」という学生の緊急行動が、共感を呼んだものと見られる。
この間に、学生たちは立法院からネットで放送し、そこに飾られていた「ヒマワリ」を支持者が届けたことから、「ひまわり」が運動のシンボルになった。
この運動は、抗議の対象と政治目標を明確化し、鎮圧や自壊の前に自主的に退去した点が、他の運動とは違っていた。
この年11月の統一地方選で、与党の国民党は大敗した。台北市長選では、民進党が支持する無所属の医師・柯文哲氏が、若者を中心とする無党派層の票を集め、国民党候補に圧勝した。
台湾の「ひまわり学生運動」に続いて、香港でも同じ年の9月から12月にかけ、民主化を求める若者たちの大規模デモが繰り広げられた。警察官が浴びせる催涙弾を、学生たちが傘で防いだことから、「雨傘革命」という名前がついた。
英国と中国は1997年の香港返還時に、50年間は、香港特別行政区において、外交と軍事を除く政治体制を存続させることで合意した。いわゆる「一国二制度」である。
香港では2017年から、首長の行政長官選挙に、これまで繰り延べされてきた「直接選挙」を導入することになっていた。しかし2014年8月末、中国の全国人民代表大会の常務委員会は、各界代表から成る指名委員会が長官選挙の候補者を2、3人に絞ることを決めた。
指名委員会は親中派が支配しているため、これでは「直接選挙」とはいえない。
これに抗議する大学関係者らが、「オキュパイ・セントラル」を呼びかけた。ここでいう「セントラル」とは、香港金融の核である「中環」を指す。「オキュパイ・ウォール・ストリート」のように、大衆を動員して民主化を要求するという狙いだった。
しかし事態は意外な展開をたどった。「オキュパイ」に先駆けて、大学生や高校生が授業ボイコットして、香港政府庁舎のある金鐘や、商業の中心である銅鑼湾、九龍半島にある旺角などの繁華街で座り込みやデモを始めたのである。
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