メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[1]アメリカとの国交回復、その効果は?

伊藤千尋 国際ジャーナリスト

 半世紀以上にわたって断絶していたキューバと米国が国交を回復して半年が過ぎた。 大使館の再開だけでなく米国によるキューバ制裁の一部解除など、関係の正常化に向けての動きは着々と進んでいる。3月にはオバマ米大統領がキューバを訪問する。

 今から45年前の1971年、大学生だった私は初めての海外の旅でキューバを訪れた。短期の観光ではなく半年間滞在し、サトウキビ畑でキューバ人といっしょにサトウキビ刈りのボランティア労働をした。

 朝日新聞の記者となってからは中南米特派員や米国特派員としてキューバを10回ほど現地取材した。

 この1月20日には『キューバ――超大国を屈服させたラテンの魂』(高文研)という本を出版した。その直後から2月初めまでキューバをまた訪れ、国交回復で何が変わったのか、これからのキューバはどうなるのかを見た。

 半世紀近くの体験を交えつつ、キューバの現状を報告したい。

急増した海外からの観光客

 まるでロンドンやパリのように、天井をオープンにした2階建ての赤い遊覧バスがハバナの街を走る。長年キューバを見てきたが、こんなものを目にするのは初めてだ。

ユネスコの世界遺産に指定されたキューバ中部の街でカクテルと演奏を楽しむ海外からの観光客=トリニダーで拡大ユネスコの世界遺産に指定されたキューバ中部の街でカクテルと演奏を楽しむ海外からの観光客=トリニダーで。 撮影・筆者
 野球帽をかぶったりカメラを提げたりした海外からの観光客がやたら目につく。首都だけでなく地方の町も観光客だらけだ。

 街角で売られていた1月29日付のキューバ共産党の機関誌「グランマ」に、「海外からの観光客、記録的な人数に」という見出しの記事が載っていた。

 米国のオバマ大統領がキューバとの国交回復を発表したのは2014年12月だった。

 効果は絶大だ。

 それまでキューバを訪れる観光客は年間に300万人ほどだったが、昨年(2015年)は一挙に350万人を超えた。記事は「わが国の経済発展に寄与する」と論評する。

 もっとも多いのがカナダ人で130万人だ。寒い北から暖かさを求めて定期的に飛んでくる彼らは「渡り鳥」と呼ばれるが、その数は前年に比べて1割以上増えた。フランスからは3割増だ。

 米国政府は国民にキューバへの渡航を許していないのに、昨年は16万人の米国人がキューバを訪れた。前年の8割増の記録的な数字である。

 2月16日に米国とキューバの間の航空協定が結ばれたので、まもなく米国からキューバに1日110便もの飛行機が飛ぶことになる。そうなれば米国人のキューバ渡航は100万人を軽く超えるだろう。

 ハバナのホテルはどこもいっぱいで、観光客は宿探しに苦労する。キューバ全国でホテルの室数は6万3000あるが、増え続ける観光客を収容しきれない。

 新しいホテルが次々に開業しており、政府は向こう5年間にさらに2万2000室以上を増やそうとしている。それでも足りないと見て、市民が経営する民宿を奨励している。民宿はすでに1万2000軒ある。

1961年以前に米国から入ったアンティーク車が磨かれて観光客用のタクシーになった=ハバナで拡大1961年以前に米国から入ったアンティーク車が磨かれて観光客用のタクシーになった=ハバナで。 撮影・筆者

街中を走るアンティーク車

 キューバでは国交断絶の前に米国から入った古い乗用車がいまだに街を走っている。

 1950年代のダッジやビュイック、さらには1928年の箱型フォードまでタクシーとして現役だ。

 観光客が珍しがって乗るため、街中を走るアンティーク車が一挙に増えた。

 ピカピカに磨かれたオープンカーが観光スポットに並ぶ。倉庫から出して化粧直ししたのだ。

 中には「売り物」と書いた紙を窓に貼った車もある。値段は日本円にして約72万円だ。

 ただし排ガスなどの基準を満たしていないので日本では使えない。米国との貿易が本格化すれば、ハリウッドの映画界がごっそり買い取りそうだ。

ココヤシの形をした観光客用の「ココタクシー」=ハバナで拡大ココヤシの形をした観光客用の「ココタクシー」=ハバナで。 撮影・筆者
 ほかにも観光客向けの馬車やココヤシの形をしたココタクシーなどもある。

 老舗のレストランには昼も夜も観光客がひしめいている。

 客が食事する間、音楽を演奏するバンドがやたら増えた。しかも自分たちの演奏を吹き込んだCDを用意して、その場で販売するようになった。

 自営のレストランも急増した。

 料理の内容も良くなり、メニューの品目が増えた。

 食前のワン・ドリンクにキューバの名物カクテル、モヒートの無料提供という、かつてのソ連型の時代では考えられないサービスもするようになった。

 軍も観光産業に乗り出し、ガビオタ(カモメの意味)という観光会社を運営する。装甲車を操縦する兵士が観光バスの運転手に、戦闘機乗りが国内線定期便の航空機のパイロットになったと言われる。

国民にはマイナス効果?

 反対に減ったものもある。

・・・ログインして読む
(残り:約548文字/本文:約2363文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

伊藤千尋

伊藤千尋(いとう・ちひろ) 国際ジャーナリスト

1949年、山口県生まれ、東大法学部卒。学生時代にキューバでサトウキビ刈り国際ボランティア、東大「ジプシー」調査探検隊長として東欧を現地調査。74年、朝日新聞に入社し長崎支局、東京本社外報部など経てサンパウロ支局長(中南米特派員)、バルセロナ支局長(欧州特派員)、ロサンゼルス支局長(米州特派員)を歴任、be編集部を最後に2014年9月、退職しフリー・ジャーナリストに。NGO「コスタリカ平和の会」共同代表。主著に『凛凛チャップリン』『凛としたアジア』『凛とした小国』『9条を活かす日本―15%が社会を変える』(以上、新日本出版社)、『世界を変えた勇気―自由と抵抗51の物語』(あおぞら書房)、『13歳からのジャーナリスト』(かもがわ出版)、『地球を活かす―市民が創る自然エネルギー』(シネフロント社)、『反米大陸』(集英社新書)、『燃える中南米』(岩波新書)など。

伊藤千尋の記事

もっと見る